伝承地底世界アガルタI−10
この特異点は、現在3つの勢力がしのぎを削っている。一つは西の密林に住んでいるアマゾネス。古代ギリシアの神話通り、女性だけの軍事国家である。これを統治するのはバーサーカーのサーヴァントだという。
次は東の湖に浮かぶ水上都市イースに住まう女海賊、そして三つめは北の岸壁に聳える大都市・不夜城を統べる女帝。
この三つの勢力はいずれも女性だけが市民権を持っており、男性は奴隷となっている。
男性を含む資源を奪い合いながら、誰がこの特異点の支配権を得るか戦っているのだそうだ。
そしてライダーはレジスタンスという男性の武装集団を率いており、この異常な空間を正して男性たちを解放しようと戦っているらしい。
その本拠地は、南の山岳地帯にある桃源郷という異質な空間で、まだどの勢力にも見つかっていないそうだ。
『唯斗たちがいる川を下った先に、ちょうど先遣隊がいるって話だから、唯斗はそれと合流して待ってて。そんで、一緒にイースに乗り込もう』
「突拍子もない話だけど、まぁ理解はした。それにしてもイースか…」
なんと数奇なこともあるものだ、唯斗と思っていると、通信越しに立香とマシュが不思議そうにする気配がする。
『どうかした?』
『唯斗さんは、イースをご存知なのですか?』
「そりゃな。俺の地元…フランスの方の故郷が舞台になってる話だ」
フランス語でYs、現地のブルトン語でIsと書く伝説上の都市がイスだ。日本ではイースと呼ばれることが多いが、日本語の長母音ほど伸ばさない。
このイース伝説は、フランス北西部、大西洋に突き出たブルターニュ地方の物語だ。そして、ブルターニュは唯斗が幼いころに過ごした場所であり、その名の通りブリテン、イギリスの影響を極めて強く受けている。
唯斗が魔術の詠唱で使用する言語も、多くはブルトン語という現地の言葉で、ラテン系のフランス語とは違い、ケルト系の言葉である。
「ブルターニュ半島の先端に、かつて存在したと言われる背徳の都、それがイースだ。当時のブルターニュ地方の王グラドロンは、溺愛する娘ダユーにキリスト教改宗を反対されて、ダユーのために海岸にイースを築いた。ダユーはキリスト教を否定してこの街を統治して、妖精の力を借りながら船を襲って莫大な富を得るようになる。神は悪徳蔓延るイースを許さず、悪魔の陰謀によってイースは水門を解放され水没。それでも、今もなお海中にそのままの形で残ってるっていう伝説だ」
ブルターニュに残るイース伝説は、バリエーションもいくつかあるが、世界的にはマイナーなものだ。
ブルターニュがケルトからキリストの文化に移行していく中で、それを象徴する物語でもある。特に、イースが今もなお海の中に残っているという設定は、ケルト文明における死後の世界「
常若の国」が海の果てにあるという価値観に基づくものだ。
ケルト文化の色濃く残るブルターニュ独特の物語である。
『へぇ〜。じゃあ、イースにいるのもダユーかな』
「実在の人物じゃないだろうし、実在したとしても知名度が低すぎる。英霊として発生できるような存在じゃない。イースの名を冠した何者か、って方が自然じゃないか」
『なるほど。地方の小さな伝説でしかない、というわけだね。私も知らないはずだ。唯斗君の言う通り、そのままサーヴァントになっているとは考えづらいけれど、ただ我々はすでに燕青というケースも知っているだろう?もしかしたら本当にダユーがいる可能性も捨てきれない』
「それも一理あるな。まぁいずれにせよ、ボコって奴隷を解放することには変わりないんだよな」
『うん、合流は先遣隊のいる港でね』
『あ、相変わらずの脳筋っぷりです、先輩、唯斗さん…』
情報の共有は進んだが、やることはシンプルだ。
3つの女性の国が群雄割拠するこの特異点において、それぞれを倒して奴隷を解放しつつ、特異点の原因を突き止めて修復を図る。
まずその最初の一手がイースとなる。