伝承地底世界アガルタI−11
水の流れとは偉大なもので、その日のうちに先遣隊のキャンプに到着した。
太陽があるわけではないものの、光源となる光苔は24時間周期で暗くなるらしく、すでに夕方になり始めた空の色に天井は輝いている。
川を下った先の森の中、岩場も多い複雑な地形の合間にキャンプはあり、川辺に船を係留してから徒歩で向かえば、男たちがキャンプを営んでいた。
唯斗は事情を説明しつつ、桃源郷からライダーと唯斗の仲間が向かってくることを伝え、先ほど救出した者たちもキャンプで保護させた。
これで落ち着ける場所に着いたことになるが、まだ空は明るい。
「ダ・ヴィンチ、俺はもう少し周辺の探索をしてみる。死角が多いから敵影に気づきにくいし」
『それもそうだね。1キロ程度であれば、どこに敵が現れても君たちの誰かが急行できる。概ねそれくらいのエリア内でまずは探索してくれ』
「了解」
大きな岩場が森のあちこちにある複雑な地形であるため、死角が多く敵の接近に気づきづらい場所だ。イースのある湖も近い、少し周囲の哨戒を行うことにした。
キャンプの代表にもそれを伝えつつ、サーヴァントたちを連れて森の中に分け入っていく。
すると、キャンプから300メートルほど離れたところで開けた草原に出た。森の中にぽっかりと空いた空間には、柔らかそうな草と花も咲いている。
のどかな光景だが、それを見てギルガメッシュが口を開いた。
「ちょうどよい。パルスの弓兵よ、マスターに狩りを教えてやれ。ウサギでもいよう」
「え、狩り?」
「食料調達、およびその加工方法を学べ。そこの弓兵であれば心得ているだろう」
なんと、ギルガメッシュからサバイバル術をアーラシュに学ぶように言われてしまった。このタイミングでそういう指示を受けるとは思わずポカンとしてしまうが、アーラシュは「おう、いいぜ!」と二つ返事で頷いた。
ギルガメッシュが意味のないことを言うわけもなく、唯斗は困惑しつつも、とりあえず了承することにする。
他には見回り以外にやることがないし、哨戒についてはまだ明るいため急ぐことでもない。
「よしマスター、ちょうどいいところにウサギがいるぞ。あそこ、草が動いてるの分かるか」
アーラシュに示された方を、視界に強化をかけてズームするように見れば、確かに揺れる草の合間にウサギが見えた。
「普通は弓矢だが、マスターは当然魔術が使えるわけだし、ガンドでスタンかける方がいいだろう」
「分かった」
唯斗は照準を合わせようと右手の指先を向けるが、すばしっこく動き回る上にそれなりに距離がある。
右手を支えるために、左手で手首を掴んで固定する。いける、と思って撃とうとした瞬間、アーラシュが「待った」と止めた。
「そりゃ外すな。しかもそっちで外すと、あの背の高い草陰に隠れちまう」
「…あぁ、そっか。わざと外して方向を誘導するのか」
「さすがに理解が早いな、そういうことだ。ちなみに狙い方なンだが…」
アーラシュはそう言うと、唯斗の背後に立って、唯斗の右手を掴んで位置をずらした。
すぐ背中に、アーラシュの筋肉が動く感覚が触れて、アーラシュの左手は唯斗の左手を動かそうと添えている。そのため、後ろから抱き締められているかのような体勢になっていた。
この男がこういうことを何の気なしにやることは想像に難くないため、唯斗は気にしないようにしながら指先に集中する。
「……ふ、意識しねェようにできてえらいな、マスター」
「っ、確信犯かよ…!」
と、楽しげに耳元で囁いたアーラシュに、唯斗は思わず肘打ちをする。大して効いていなさそうな様子で、アーラシュはからりと笑うと体を離す。
ちなみに、後ろからアーサーの盛大な咳払いも聞こえてきていた。
なんとか気を取り直してウサギのすぐ近くにガンドを放ち、驚いて飛び出したところを狙ってすぐに次を放つ。予想通りに動いたため、ガンドはウサギを直撃した。
小動物なら、このスタンで心臓が止まって死んでいるはずだ。
見届けたギルガメッシュは、後ろからまた次の指示を出す。
「いきなり30人も増えたのだ、キャンプの物資は不足している。お前は自分で調達するべきだろう」
「…要は、あのウサギ食えってことだよな」
「捌き方も弓兵が知っておろう」
「まぁ教えることはできるが、そこまでするモンかね」
アーラシュはさすがに疑問を投げかける。アーサーも同様に、訝しげにギルガメッシュを見遣ったが、ギルガメッシュは鬱陶しそうにする。
「我がやれと言ったのだ、それで十分であろうが」
「やるよ、アーラシュ。やり方教えてくれ」
「…分かった」