悪性隔絶魔境新宿I−12
朝早くの出発をしたため、ねぐらに戻ってから仮眠を取ることになった立香と唯斗だったが、唯斗がいつも通りしばらく寝付けずにアーサーに寄りかかっていると、突如として電話が鳴り出した。びっくりして、アーサーと二人、すぐに立ち上がる。
さすがの立香も飛び起きて、けたたましく鳴る電話を呆然と見つめた。
「…え、電話?」
「出ろ、マスター」
アルトリアは少し電話を見てから、立香に出るよう促した。そもそも電話線が繋がっているか怪しいこの街で電話が鳴ることに極めて不審な気がしたが、立香は躊躇いもなく電話に出てしまった。
相手はすぐに話し始めたらしい、立香は何も言わずに受話器に対して傾聴姿勢となる。
少しして、小さく応答してから電話を切った。こちらを振り返る。
「えっと…今のはエドモン・ダンテスからの電話だった。新宿御苑を縄張りにしてるジャンヌ・ダルク・オルタのところに、エミヤ・オルタが襲撃しに向かってるって」
「は、マジで?」
「うん、マジ」
なんとこの特異点には、ジャンヌ・ダルクとエミヤのそれぞれのオルタがいるらしい。とことんイレギュラーな空間だ。
さらにそれを伝えたのがエドモン、時間神殿でちらりと見掛けたモンテクリスト伯だというのだから、いったいこの特異点はどうなっているのかと謎が謎を呼ぶ。
アルトリアは大して驚きを見せなかったが、眉をひそめる。
「あの女、いつの間に断りもなく縄張りを作っていたのだと?オルタのくせに生意気な」
「むう、私は反対だ」
アルトリアはいいとして、アーチャーはジャンヌ・オルタを助けに行くことに反対した。なんでも、以前新宿御苑に入った際にジャンヌに迎撃され死にかけたらしい。
「この無実と無垢が服を着て歩いているようなアラフィフにひどいのではないかな!?」
「正しい、助けに行こう」
「なぜ!?」
なんであれ立香は助けに行くつもりだっただろうが、アーチャーにすげなくそう返して支度を始めた。マシュも通信越しにルート構築を始める。
それにしても、と唯斗も準備をしながら考える。
エミヤにもオルタ化した存在がいるとは少し驚きだ。結局今に至るまで、エミヤがどういうサーヴァントなのかよく分かっていない。普通の英霊ではないのだということはよく理解しているが、固有結界を展開できるほどの強さともなると、本来相当に高位の英霊だ。
「マスター、大丈夫。カルデアの彼とは違うとよく分かっているだろう?」
「…あぁ、そうだな。気にしてもしょうがないな」
アーサーはやはり、すぐに唯斗の考えていることを理解した。微笑んでそう言ってくれたアーサーに、同じく唯斗も薄く笑って返す。
とにかく今は、この新宿のあまりに多すぎる謎一つ一つに翻弄されずに、フラットな考えを維持するべきだろう。
そうしてねぐらを出た一同は、すぐに東へと走り出す。ここから新宿御苑は線路を挟んで反対側に位置するため、線路を飛び越えさえすれば新宿四丁目を通り過ぎてすぐに到着する。
とはいえ、新宿御苑そのものが巨大であることから、ジャンヌに合流するまで気は抜けない。
相変わらず夜の街を走り、線路のところでアルトリアが立香を、アーサーが唯斗を抱えてジャンプして飛び越え、新宿四丁目エリアに着地する。
さらに前方に広がる森林へと走り出そうとした、そのとき、突如として新宿御苑の南側から猛烈な火炎が立ち上った。
まるでドラゴンが火を噴いたかのような業火が森を焼き尽くし、近くの繁華街を炎に包む。その熱風はこちらまで届いた。
「あれはジャンヌ・オルタの炎だ。すでに交戦している…いや、あれは自爆か」
「自爆!?急ごう!」
立香は走るスピードを上げる。第一特異点で敵対していた相手だったというのに、当然のように全力で助けに行く姿は、もう見慣れたものだった。