伝承地底世界アガルタI−16
「それにしても、本当に高度な迷彩術式だね」
路地を歩いていると、隣を歩くアーサーが感心したように言った。
現在、唯斗の迷彩術式によって、4人分の姿を隠しながら悠然と街を歩いている。ぶつかりさえしなければ、ものが散乱する路地で音を立てても問題ないため、足音だけ潜めて歩いていた。
「ギルガメッシュとマーリン監修の迷彩だからな」
この迷彩術式は、単純に唯斗の魔力を分散させることで光学迷彩のようにしているものだが、この魔力の使い方などはギルガメッシュとマーリンに教わったものだ。とはいえ、ギルガメッシュはキャスターとしては本人も「真似事」と称しているように、決して詳しいわけではない。
どちらかと言えば、マーリンの適当な言葉を噛み砕きつつ、魔杖がもともと有している機能を解析して応用できることを伝授するという科学者めいたことをしていた。
「フン、この我が手ずから教えてやったのだ。当然であろう」
「すっかり立派な魔術師だなァ、マスター!」
「頑張った成果が出ているね、マスター」
「…貴様ら、怒りを通り越して引くぞ」
どや顔のギルガメッシュを無視して唯斗を褒めそやすアーラシュとアーサーに、ギルガメッシュは怒りよりも引いたようにした。
そんな会話をしていてもバレないような喧噪が満ちる街だが、そのざわめきの性質が次第に変わり始めた。
何やら殺気立ち、警戒が滲んでいる。侵入者がいる、という怒号も聞こえた。
「…立香か。大方、奴隷の男たちを見かねて助けたってところだろうな」
「容易に想像できるね。どうする?めぼしい建物は見えているけれど、この騒ぎで路上に人が多く出ている」
どうやら立香が早速やらかしたらしい。それ自体は想定の範囲内だ。あちらはあちらでうまくやれるだろう。
それにしても、こうも道に女海賊たちが出てしまっていると、さすがにぶつかってしまう。これは最後の手段を使うしかないか、と唯斗はため息をついた。
「しょうがない、屋根伝いに一気に進もう。アーサーは俺のこと頼む」
「了解」
アーサーは慣れたように唯斗を横抱きにすると、跳躍して屋根の上に飛び乗る。同様に、アーラシュとギルガメッシュも屋根にあがってきた。
このまま、街の中心部に見えている大きな館を目指す。
いくら迷彩で見えていないとはいえ、この抱かれ方はやはり恥ずかしい。
「じゃあ行こうか、マスター」
「あぁ」
もう今更目くじらを立てることこそないが、早く下ろしてくれ、とは思っている。
そうして少し耐えること5分、街の中心部の館に辿り着くと、ちょうど立香たちも建物に忍び込もうとしているところだった。
迷彩を解き、声を潜めて立香に近づく。
「立香、」
「唯斗、良かった。ちょうど中に入って通信入れようと思ってたんだ。ごめんね、騒ぎにしちゃって」
「後悔してなさそうだからいい。とっとと制圧しよう」
「…ありがと」
礼を言った立香に、気にするな、という意味を込めて背中を軽く叩いてから、全員で館に侵入する。
マシュとの通信も再開し、このまま進んで大丈夫だという指示を受けて突き進む。
そうしてやってきたのは、大きな玉座のようなホール。その中央奥の椅子から悠然と立ち上がる女性に、カルデア側は息を飲んだ。
「あら…街が騒がしいと思えば。客人がいらっしゃっていたのね」
「ドレイク!?」
声を上げる立香。そう、そこに立っていたのは姿を消していたフランシス・ドレイクだった。しかし、その姿はいつもと異なり、しゃべり方も違う。
そこに、ダ・ヴィンチが通信で報告を告げた。
『マシュ、立香君、霊基パターンの解析が完了した。あそこにいるのは間違いなくドレイクだ』
「いいえ、私の名前はダユー。海賊公女、イースのライダーとも呼ばれているわ」
「ダユーって、唯斗が言ってた…」
なんと、ドレイクらしき女はダユーと名乗った。そこで、唯斗は理屈を理解する。
「ダユーが実在していようとフィクションだろうと、英霊として存在できる強度の情報じゃない。新宿の英霊みたいに、混ざり物…いや、ドレイクの霊基を間借してるようなモンかもしれないな。ダユーは、イースの繁栄のために妖精の力で海賊行為を行っていた人物だから、親和性があったんだろ」
「なるほど…」