伝承地底世界アガルタI−17
霊基はドレイクのものだろう。だが中身は、恐らくダユーが乗っ取っているような状態だ。そうでなければ、ダユーのようなレベルの存在がサーヴァントにはなれない。
「ようこそ私の街へ。ここは何もかもが許される、自由と退廃の都。楽しんでもらえているかしら?」
「悪趣味な遊びは見れたがな。ま、面白くはなかったが」
ダユーの問いかけにライダーが吐き捨てるように答える。それを聞いても、ダユーは顔色を変えなかった。
「でも見たのなら分かるでしょう?愛、快楽、暴力、酒、享楽、愉快な生き物、可愛い生き物。そして、その死!誰もが一番欲しいそれを常に奪い続けている。なんて幸福な街なのだろう、と思わなかったかしら?」
「幸福ぅ?ゴミだらけの街だなとしか思わなかったよ。いろんな意味でね」
アストルフォも皮肉交じりに答えたが、ダユーはなおも歌うように続けた。
「あぁ、あなたたちはまだこの街の規範を知らないのですね。ならば教えましょう。私の教えはたったの二つ。欲するモノは自ら奪え。そして、自ら奪ったモノは欲するな。惰性での保持など無意味。惜しみなく手放しなさい。どうせ誰かがそれを欲するのだから」
『なるほど。すべての資源や資産が一個人に留まらず絶えず流動する、それは確かに完成された社会だ!それを刹那的とみるか公正とみるか、という問題だ』
ダ・ヴィンチの言うとおり、確かに誰もが奪い、誰もが捨てるのなら、すべてのリソースが循環し続けるということになる。
「ええそうよ。そしてこれは、誰もが幸福になる方法。私の規範に従う者たちが集まり生まれるのは、純然たる刹那の快楽に織り出された都市。奪うことで誰もが等しくその瞬間において最大幸福を得ているのならば、その瞬間においては全国民が幸福なのと同じでしょう?」
ダユーはこれで高貴な人物だ。その理論は、中世前期の人物にしては高度でもある。
フェルグスも、困惑の色を見せている。
「奪うという行為を無制限に許容することで、すべての民が幸せに…そんな在り方も、あるのか?」
「何言ってんだフェルグス、そんなわけないだろ」
唯斗はそんなフェルグスにきっぱりと否定を示した。フェルグスは驚いたように唯斗を見上げる。
「あらゆる財は減耗するものだ。最初の価値からどんどん目減りしていく。減価償却ってやつだな。そしてそれを使い回し続けて新たなものを生産しない…それはいわば縮小再生産。行き着く先はゼロだ。だから別のところから継ぎ足さなきゃならない。つまり、一方的に奪われるだけの存在がいることを前提にしないと成立しない社会ってことだ」
「ああ、唯斗の言うとおりだ」
すると、ライダーも剣を抜きながら唯斗に同意した。ここでの奪われるだけの存在とは、男たちを示すのだ。
「お前たちに食い物にされる側の奴らの気持ちは、何かを奪われた奴らの気持ちはどうなる?尊厳を、命を、玩具のように奪われてる男たちの気持ちはよォ!」
「……?なぜ男の気持ちなんて考えなければならないの?」
それに対して、ダユーは心の底から分からない、という表情を浮かべた。彼女の伝説を考えれば当然だ。
「私はグラドロン王の娘ダユー。誰よりも美しく高貴な女。そうでないものから奪う権利があるわ。そして奪われたものはそれを幸福に思う義務があるわ。イースは私の名代、だからイースから奪われた者たちもすべて幸福に思っているはず。でなければ、私と一夜を過ごし、そして命を奪われた殿方が、あんな素晴らしい顔で涙を流すわけがないではありませんか」
「…え!?」
驚く立香に、唯斗は以前語らなかったイース伝説の一部を教えることにした。この女の醜悪さを決定づける要素だからだ。
「ダユーは、毎晩国中の男を呼んで夜を共にしては殺して捨てていた。このままではブルターニュが滅びると危惧した聖職者が説得を試みて、それでもダユーは聞かなかったから、イースは神の怒りに触れて水没したんだ」
『マスター、断言します。あの方はドレイクさんではありません。ドレイクさんは、奪うことの罪の重さを理解して、それでもなお笑い飛ばして船に積む豪胆さを持った人でした。でもダユーは違います。その罪すら理解していないのです』
「……分かった。ありがとう、唯斗、マシュ」
立香は一通り話を聞いて、一度目を伏せる。そして次に顔を上げたときには、もう決意は固まっていた。
「みんな戦闘準備。知り合いに似ているだけの別人だ。戦おう」
「そうこなくちゃな!」
すでに戦闘態勢だったライダーだけでなく、全員が武器を手に取る。ダユーも、大量の女海賊たちをホールに呼び寄せた。