伝承地底世界アガルタI−19


「くそ、こうなったらエクスカリバーで…!」


この数だ、まとめてエクスカリバーで薙ぎ払うしかないか、と思っていた、そのときだった。

突然、床が大きく揺れ動いた。階下から轟音とともに、壁が崩れてガラスが割れ、様々なものが水に流される濁流の音が響き上がってくる。
まさか、という唯斗の予感は的中する。


「ダユー様!」

「これは何事なの」

「それが、水門が開かれました!湖の水が流れ込んで、街が沈んでいってます!!」

「馬鹿な!水門は誰にも操作できないはず、鍵は私が持つ一本しか…!」

「くふっ…くはっ…!くはっはっはっは!」


そこに、新たな声がどこからともなく聞こえてきた。幼い笑い声とともにダユーの前に姿を現したのは、紫色の長い髪をした少女だ。


「あの子、さっきの…!」

「立香、知ってるのか」

「さっき道案内してくれた」


なんと、立香たちをこの屋敷に案内した少女だという。どう見てもサーヴァントだ。いや、立香のサーヴァントたちがそうと気づけなかったのなら、アサシンクラスなのだろう。サーヴァントとしての気配を遮断していた可能性がある。


「お前は…っ!不夜城のアサシン!」

「ほ、さすがに妾の顔くらいは知っておったか」


そして、立香たちを誘導したというのなら、それは互いににらみ合っている三つの勢力の一つ、不夜城の支配者だ。


「藤丸とやら。ご苦労であった。愚かな貴様らが愚かなこの女の相手をしてくれたおかげで、妾は望むモノが手に入ったぞ。くふふ、簡単なことよなぁ。鍵一本あればイースなど滅ぼせるのじゃから!」


どこか東洋風のため、中国系の英霊かもしれない。正体はまったく分からないが、どうやらこのアサシンがダユーの鍵を奪ってイースの水門を開放してしまったらしい。
それによって、イースは水没しつつある。


「まさか…キャスターか!あの女、今度はそちらに…!」

「この国を見限ったヤツの心情、わからいでか」


どうやら何者かが鍵のありかをアサシンに伝えたようだ。その何者かもまったく予想もつかないが、そこに、先ほどアーサーがダユーを叩き付けた壁の亀裂から、壁一面が一気に崩壊した。
大量の水が噴き出し、水圧によって壁が崩れて鉄砲水となってダユーたちを押し流す。


「き、あ、ああああああ!!!」


ダユーは女海賊たちとともに流されて姿を消し、ホールは瞬く間に水没しそうになる。
慌てて、唯斗が結界によってこちら側半分を覆う壁として水をせき止めた。


「ちい…脱出だ!イースと心中する気はねぇ!」


ライダーは剣をしまって退避態勢になる。そこに、結界のこちら側にいつの間にか来ていたアサシンがニヤリとして立香を見た。


「にははは!おっといかんいかん、この姿では女帝らしからぬ笑いが出てしまう。くふふ!それではのう、藤丸とやら。いや、早くもその名には飽きてきたぞ。よし、新たな名は昏羊としよう。光栄に思うがよいぞ。疑いもせず妾についてきた愚かな貴様は、まるで自分の毛が刈られていることにすら気づかぬまま昼寝を続ける愚鈍な羊のようであったからな!」

「Hūn yang…昏羊、か…?」


唯斗はアサシンの言葉から中国語だと理解する。喋ることができるわけではないが、なんとなく発音と今の喩えから字面は分かった。
さらに女帝、という言葉から、無数に存在する中国の英霊からたった数人に絞ることができた。

だがそれよりも、今は脱出が優先だ。


「立香、結界だけじゃ保たない!早く脱出するぞ!」

「わ、分かった!」

「次は我が光輝の都、不夜城に来るがよいぞ!」


そんな言葉とともにアサシンも姿を消す。いよいよ唯斗たちの足下も足首まで水が来ている。あちこちから浸水しているのだ。

そうして、マシュのナビゲートに従って屋敷を脱出した一同は、なんとか市街地の西側、浸水しない高さの区画まで脱出することができた。
伝説通りに水没したイースの街に、唯斗はダユーの最後を思う。フランス最後のケルト文化の地であったブルターニュにおいて、さらに最後の物語だったのがイース伝説だ。その象徴である彼女とは、唯斗たちでけりをつけたかった。
この借りは返さなければならない。

次の目的地を不夜城と定め、一行はイースを後にした。


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