伝承地底世界アガルタII−2
「と、とにかく今はこのあとのことだ。ライダーたちだって待ってる。デオン、さすがにここでもイースみたく目立つわけにはいかないと思うんだけど」
デオンは唯斗にため息をつきつつ、やはり同じフランスのよしみからか、助け船としてその話題を続けてくれた。
「…そうだね。今回こそは本当に隠密行動でいこう。街の状況や敵の情報、そしてアサシンの居場所、すべての情報が揃って初めて全員で動く。情報収集は私とアストルフォで行う」
「え、なんでー!?」
デオンはそのまま、アストルフォと二人で諜報を行うことを提案した。それは道理だ、と唯斗も通りの様子を見て思う。
不夜城も市民は女性が中心だが、その服装も出で立ちもバラバラだ。ここまで統一感がないのなら、デオンとアストルフォであればそのまま行動できる。
といっても、アサシンには顔が割れているため、簡単な変装はするらしい。
デオンが道中に拝借してきたという変装用の服を、少し離れた路地で着替えた二人は、再び唯斗たちの前に姿を現した。
「…え、」
「うわわ」
唯斗は固まり、立香も口元を手で押さえ、フェルグスは顔を赤らめ、ギルガメッシュは眉根を寄せ、アーラシュは「いいねぇ」とけらけら笑い、そしてアーサーは困ったような戸惑ったような複雑な表情を浮かべた。
「これってセーラー服ってやつだよねぇ」
そう、アストルフォはセーラー服、デオンはメイド服だったのだ。
男性陣(ここにいるのは全員男だが)はどうリアクションすればいいのか、と微妙な空気になる。アーラシュだけが「不思議な特異点だなァここは」と懐深く笑っている。動じるということを知らないのだろうか。
「ちなみにどんなところから取ってきたのさ」
「普通の寝室のタンスだ」
「あー、寝室かぁ。それは、まぁ…用途はあるもんねぇ…セーラー服とかメイド服があってもおかしくないか…」
「な…っ!」
デオンはアストルフォの言葉にさっと顔を赤らめる。どこにそんな要素があったのか、と思っていると、立香は完全に理解したという表情を浮かべていた。
「俺はどっちも好きだけどやっぱナースかな」
「何を言っているんだマスター!まったく…、しかし、いまさら別の服を探しに行くわけにもいかない…幸い、こんな格好でも目立つことはなさそうだ。それくらい、街の人々は混沌とした服装をしている」
立香が何を言っているのかはよく分からなかったが、とりあえずデオンもアストルフォも問題はないようだ。
そこに、マシュからなぜか小声の通信が入る。
『マスター、その、一応の確認なのですが…マスターもデオンさんの性別はまだご存じないですよね…?』
「うん、もう性別とかいっかなって」
『それを踏まえてなのですが…その……』
マシュの言葉の意図を察したように、立香もちらりとデオンの胸元を見遣る。今度は唯斗もどういうことか理解できた。
「あぁ…あるように見えるね……」
『英霊としてのスキルで体を変化させているのか、それとも…というところなので』
「まぁ、謎の方がいい謎もあるよ」
『…そうですね、私も今は気にしないことにします』
デオンの……が本物かどうかは別として、今は情報収集という作戦行動の話だ。
デオンは準備ができたアストルフォとともに、表通りに視線を向ける。
「それでは行こうかアストルフォ」
「りょーかい!」
アストルフォは元気よく返事をすると、スカートをさらに短くしながら通りに出て行き、当然のようにデオンに咎められていた。
路地裏に残された唯斗たちだったが、さすがにこの人数で留守というわけにもいかない。
「俺たちも迷彩術式で探ってみる。アーラシュだけ高い建物で霊体化して見張り頼む」
「了解、そこの鐘楼にいるぜ」
アーラシュを近くの塔の屋上に上らせ、高いところから俯瞰して見守ってもらう。
一方で、唯斗はアーサー、ギルガメッシュとともに迷彩術式で街に潜入してみることにした。
「フェルグス、立香のこと頼む。立香も目立つことするなよ」
「はい、もちろんです」
「分かってるってば。唯斗も気をつけてね」
立香をフェルグスに任せ、唯斗も身を隠して表通りに出る。人が少ない道を選んで歩きつつ、より繁華街として賑わう広場の方に向かってみることにした。