伝承地底世界アガルタII−4
恐怖に耐えきれず叫ぶ男性。陵遅刑、古代中国で行われていたものが次第になくなり、やがて五代十国時代に異民族による漢族の統治のために制度化されたものだ。
征服王朝である清朝にも受け継がれ、20世紀初めまで存続した極刑である。
生きたまま細切れにするこの陵遅のほか、生きたまま四肢を引き裂く車裂きや生きたまま体の皮膚を剥ぎ取る皮剥など残酷な極刑は世界中にある。
サンソンは、フランス革命初期に行われた車裂きを18歳のときにアシスタントとして実行しており、その残酷さからギロチンを議会に提案するに至り、これによってフランスは斬首以外の残酷な処刑方法をすべて廃止するのである。
そこに至るまでのサンソンの苦しみ、そしてギロチンが生まれてからの彼の葛藤、すべてを知る唯斗が、ここで黙っていることなどできるわけがなかった。
「立香には後で謝る。アーサー、ギルガメッシュ、悪いけど行くぞ」
「問題ないよ、マスター」
唯斗の言葉にアーサーはすかさず返し、ギルガメッシュも無言で了承した。
唯斗は迷彩を解除すると、すぐに強化をかけた足で飛び出し、群衆の上から処刑台の上空に舞い出た。
「アーサー!」
唯斗は叫びつつ、結界によって男性の指先に振り下ろされようとしていた鉈を止める。結界に弾かれてよろめく酷吏を、アーサーの聖剣が吹き飛ばした。
ひしめくネオンの一つに激突した酷吏は看板とともに落下し、電気がショートする激しい音に悲鳴が上がる。
さらにギルガメッシュは空中の門から魔杖を出現させて、男性の腕を掴む二人の酷吏も消失させる。
それを確認してから、唯斗は急いで男性を拘束するロープをナイフで切断した。
広場からは人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っているが、入れ替わりに通りから他の酷吏が駆け込んでくる。それも、アーラシュの遠距離射撃によって次々と倒れていく。
さらに、別の通りから現れた酷吏はデオンとアストルフォが攻撃し、デオンはこちらに駆け寄ってきた。
「すまない唯斗、私は迷ってしまった。任務を優先するか、彼を優先するか。君は、サンソンのマスターである君だから、動かないわけがなかったね」
「当然だ。よければ後で一緒に立香に謝ってくれ」
「マスターは怒らないさ。彼も同じことをしただろう」
「……同感だ。よし、掃討は完了した。いったん隠れよう」
唯斗は男性を連れて処刑台を降りる。走ることは問題なさそうだ。
「あぁ、ありがとう、ありがとう君たち…!」
「安心するのはまだだ、安全な場所に移動する」
アーサー、ギルガメッシュ、デオン、アストルフォも集まり、人がいなくなった広場からとりあえず通りに出ようと走り始める。
するとそこに、立香とフェルグスも現れた。戦闘音を聞いて駆けつけてくれたようだ。
「大丈夫?!」
『取り急ぎ逃走ルートをナビします!』
経路はマシュに任せて、合流した全員で路地裏に飛び込んで走り出す。
路地に響く足音が反響していくのを聞きながら、唯斗は後ろを走るギルガメッシュを振り返った。
「…怒られるかと思った」
「我にか?」
「立香にあれだけ言っといて俺が騒ぎ起こすのかって」
「フン、貴様の在り方を否定はしない」
これだけのことをしでかしたため、ギルガメッシュに小言でも言われるかと思ったが、ギルガメッシュは怒ることはなかった。
前方ではマシュが示した隠れ場所に到着したらしく、走るのをやめて立香たちに続いて路地の奥へと歩いて行く。
「…ありがとな」
何も言わないでくれたギルガメッシュに礼を言うと、ギルガメッシュは呆れたようにして唯斗の額にデコピンをする。まったく痛くはないそれを受け止めた直後、ギルガメッシュは頭を撫でる。
「…いつもお前がサーヴァントたちにしていることだろう」
「……、」
いつも唯斗がサーヴァントたちの在り方を否定せずにいるのだろう、とギルガメッシュに正面から褒められてしまい、唯斗は何も言えなくなる。
頭を撫でる手は、存外優しかった。