伝承地底世界アガルタII−7


「唐は法で東アジアを支配した。文化も宗教も文字も違う広大な領土を統治するために、絶対的な基準が必要で、それは属人性があっちゃいけなかったから。だから法を整えた。その律令制が機能していたから、あんたは女帝になれた。違うか?中国史上唯一の女帝、則天武后…いや、中国の呼び方で言えば、武則天」


酷吏による拷問と処刑、密告の奨励、紫微城から名を取った宮殿、サーヴァントになれるほどの格の高さ。これらを合わせれば、中国広しといえど英霊は限られる。
唐において一時的に帝位についた女傑、4000年の帝政において唯一の女性の皇帝。則天武后だ。日本では則天武后という名が一般的だが、中国史では武則天と呼ぶ。
武則天は都を洛陽に置き、その宮殿である紫微城の瑤光殿に暮らしたとされる。


「くっふー!正解じゃ!褒めてつかわす!貴様に免じて最後の機会じゃ。今ならまだ、獄に繋がれずに済むやもしれぬぞ?不夜城に下るというのならな」

『確かにその街は正しさがあるのかもしれません。でも、人々は笑っていなかった…笑顔のない国を、私は正しいとは思えません!』

「マシュの言うとおりだ!正しく見えるだけの、偽りの繁栄だよ」

「同感だな。正しくなくとも生きる権利がある、それこそが人類の至った国家の在り方だ。悪いけど、7世紀の価値観からはもう脱却したんだ、俺たちは」


マシュ、立香、唯斗の回答に、ついにアサシンは苛立ちを露わにした。手に持った杖をかざして、いよいよ戦闘態勢になる。


「フン!この都と妾の輝きが眩しすぎて直視できぬか!ならば瞼を閉じて暗闇に果てよ!」


その言葉と同時に、玉座の間には大量の酷吏が現れた。イースの女海賊と同様に、次々と分裂して増えていく。
全員の緊張感が高まり、アーラシュはすぐさま霊体化して近くの高所にある照明を足場とすべく移動を始めた。


「心得よ、妾が直接手を下すはそこな淫乱桃色娘と猫である!」

「フォウ!?」

「ちょっと誰のことー!?」


一番生意気な態度だったからか、アストルフォが名指しで指定された。また、フォウを猫だと思ったのか敵視している。
これは、武則天がかつて処刑した前皇帝の愛人が、「生まれ変わったら猫になって、同じくネズミに生まれ変わった武則天を食い殺す」と呪って死んだためだとされる。事実、武則天は宮中で猫を飼うことを禁じた。


「アストルフォはキャスター担当!デオンは散会して酷吏を倒して、フェルグスは俺のそばで護衛お願い!」

「ギルガメッシュは武則天を頼む。アーサーはデオンと反対側の酷吏たちを掃討してくれ」


矢継ぎ早に指示を出せば、すぐにデオンとアーサーによる酷吏との戦闘が始まる。アーラシュはすでに高所の照明から援護射撃を開始しており、フェルグスも立香のそばで近寄る敵を倒していく。
ヒポグリフに乗ったアストルフォはキャスターの遠距離攻撃を躱しながら接近して槍で突撃し、ギルガメッシュも唯斗のそばでゲートを開いて魔杖による光線を発射した。

武則天はギルガメッシュの光線を避けながら、こちらに杖をかざした。


「小癪な…!」


武則天は杖の先端を青黒く輝かせる。宝具の展開だ。
何をする気だ、と思った直後、先に魔力を感知したらしいギルガメッシュが唯斗をおもむろに突き飛ばした。


「うお、」

「唯斗!?」


立香に抱き留められた唯斗だったが、直後、ギルガメッシュの足下に巨大な紫色の渦が現れていた。床が液体のようになっており、ギルガメッシュが足を掬われて引きずり込まれそうになっている。

唯斗は慌てて立香から離れると、ギルガメッシュの空中に結界を出現させ、強化した足で勢いよく跳躍してその結界に着地する。
そして、その上からギルガメッシュに手を伸ばした。


「掴まれ!」


ギルガメッシュは驚いたようにこちらを見上げてから、すぐに唯斗の手を取る。
同時に、唯斗はギルガメッシュの手を掴む左腕に強化をかけた。かなり強い強化のため、魔術回路が青白く輝いて礼装越しに透ける。
強化の力によって容易くギルガメッシュを引き上げた唯斗は、結界の上にギルガメッシュともども倒れ込む。


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