伝承地底世界アガルタII−8
「おのれ、妾の告密羅織経を抜け出すなど…!」
「陛下!」
キャスターは慌てて杖の先から光の弾丸を射出した。こちらに飛んできた光弾を、ギルガメッシュは造作もなく魔杖から光線で相殺し、その爆風の中で唯斗の体を抱き上げて結界から飛び降りた。
元に戻った床に降り立つと、ギルガメッシュは唯斗を腕に抱き締めたまま、宝具を展開する。
「世界最古の法を生み出した文明の父たる我に刑を執行しようなど、笑わせる!」
そう言うと、ギルガメッシュと唯斗の背後に、かつてウルクで見たディンギルが数台出現する。そこから、宝物庫の宝具が無造作かつ大量に射出され、光弾となってキャスターと武則天に飛び出した。
直撃した二人は悲鳴を上げ、煙に包まれる。
すでにアーサーとデオンによる掃討もあらかた終わっており、煙の中から攻撃が来る気配はない。
ギルガメッシュの腕の中、鎖骨あたりに顔を押しつけられながらそれを見守っていると、ギルガメッシュは思い出したように唯斗を解放した。
「忘れておったわ。収まりが良くてな」
「あんたなぁ…」
いつも通りのギルガメッシュに少し呆れていると、煙が晴れて、ボロボロになった武則天が姿を現す。
それでも毅然としてこちらを睨み付ける気迫は、まさに中華唯一の女帝と言わんばかりのものだった。
どう決着をつけるか、と思った、そのとき。
「ッ、二人とも離れろ!」
そう叫んで、アーラシュが唯斗とギルガメッシュの背後に瞬時に降り立つと二人を後ろに引っ張った。
直後、玉座の間の天上が轟音とともに崩落し、大量の瓦礫が降り注いだ。武則天のいる辺りは完全に瓦礫に覆われ、照明が瞬き、塗装が剥落し、粉塵が立ちこめる。
二人が立っていた場所も巨大な柱が倒れていた。
「あ、ありがとなアーラシュ」
「よもや我より先に視るとはな」
ギルガメッシュの遠回しな礼にも気を悪くすることなく、アーラシュは「無茶して悪いな」とからりと笑う。
しかし、瓦礫を見据える目は剣呑だった。
アーサーもすぐに駆けつけてきて、かなり緊張した面持ちをしている。
『霊基パターン照合、し、信じられませんが、あれは…!ヘラクレス、カルデアから姿を消していたサーヴァントの一人です!ですが…』
「でかすぎない!?」
立香も目を丸くしている。
そう、天上から降ってきたのはヘラクレス、バーサーカーのギリシア英雄だ。普段はカルデアでもおとなしくしている方だったが、今目の前にいるヘラクレスは、どう見ても冷静には見えない。しかも、いつもより遥かに巨大になっている。
ヘラクレスは目に止まった酷吏たちを一振りで薙ぎ倒し、壁に叩き付ける。その衝撃だけで、床が一部崩落して壁に穴が空いた。
「無差別に攻撃してる…!」
立香はなんとか会話ができないかと窺うが、とてもそんなようには見えなかった。
そこに、キャスターがやってくる。敵意はない。
「あれは天災、たとえ防御に徹しても一撃で終わるでしょう」
「何のつもりだ」
デオンはすかさず剣を向けるが、キャスターは怯えたように後ずさる。
「私に敵意はありません、降伏します」
「随分素直に答えるな」
「私はただ…死にたくない、だけなのです。もう、武則天はいませんから…何にせよ、今は、逃げるべきかと」
「立香、キャスターの言うとおり、ヘラクレスは戦うべき相手じゃない。この建物ごと吹っ飛ばされる。てか、足場が保たない」
「そうだね、撤退しよう!」
ヘラクレスはまだこちらに注意を向けていない。
すでに目的も果たしているため、全員すぐに撤退することになった。
階段を駆け下りて城を出ると、不夜城の市街地は、あちこちで戦闘が起こって煙が上がっていた。
「待て立香、アマゾネスだ!」
建物の影から出ようとした立香を慌てて唯斗が引き留める。
なんと、市街地ではアマゾネスたちが臣民や酷吏と戦っているのである。こんなときにアマゾネスとも戦うというのは無謀だ。
しかし、ライダーが駆けつけてきてくれたことで退路が確保され、脱出すること自体は可能になった。残念ながら不夜城はエルドラドの勢力に奪われてしまうだろうが、命あっての物種だ。
こうして、不夜城は陥落し、一同はいったん桃源郷へと帰投することとなった。