伝承地底世界アガルタII−9


不夜城を後にしたレジスタンスとカルデアは、その日のうちに桃源郷と呼ばれる奥地に到着した。
唯斗は初めてとなる場所であり、野宿続きからようやく落ち着ける場所にやってきた形である。

とりあえずは桃源郷で体を休めつつ次の行動を考えることになったが、そこで、ずっとついてきていたキャスターの処遇についても決められた。

キャスターは信用してもらえるよう、自ら真名を明かした。彼女の正体はシェヘラザード、千夜一夜物語における語り部役だ。

千夜一夜物語は、ササン朝ペルシアで生まれイスラーム下のバグダードで大成された物語の形式であり、日本で言えば大鏡に似ている。
アラビア語でアルフ・ライラ・ワ・ライラ、ペルシア語でへザーロ・イェク・シャーブ、中世ペルシア語でハザール・アフサーナという。

ササン朝の王シャフリヤールは、妻の不貞をきっかけに女性不信に陥り、帝都クテシフォンの若い女性を毎晩一人ずつ閨に呼んでは翌朝に首をはねた。このあたりはダユーの伝説にも通ずるところがある。
その凶行を止めるべく、側近の大臣の娘シェヘラザードが毎晩物語を読み聞かせ、続きを知りたいと願う王が処刑せずにおいたことで、ついに王はこの悪習を止めることになる、という筋書きだ。
このシェヘラザードが毎晩語って聞かせた小物語群は、中東に広く口伝されていた物語を明文化したものでもある。

とはいえ、一般的に千夜一夜物語の収録とされる「アラジンと魔法のランプ」「アリババと四十人の盗賊」「シンドバッドの冒険」はいずれも原典にはなかったもので、欧州の学者が勝手に付け足したものである。
アラジンとアリババはどちらもアラビア半島地域の伝承であるし、シンドバッドとはインド北西部のシンド地方の船乗りを指す言葉だ。

シェヘラザードより古い時代を生きたアーラシュとギルガメッシュは彼女を知らなかったが、シェヘラザードは当然、二人のことを知っていて、恐怖以外で表情を変えることのないシェヘラザードであっても、アーラシュとギルガメッシュに会えたことに感動しているようだった。

そうして新たに仲間になったシェヘラザードの案で、翌日にエルドラドを急襲することが決まり、今晩は桃源郷で夜を明かすこととなった。

唯斗は宛がわれた小屋の簡素な藁のベッドに腰を下ろし、大きく息をついた。


「あ”ー…さすがに疲れた……」


寝心地はあまり良くないベッドに横たわると、小屋を見渡していたギルガメッシュはため息をつく。


「そこな辺境の島国の騎士王ならともかく、この我に相応しい場所ではない。我は外にいる」

「分かった」


ギルガメッシュはそう言ってさっさと小屋を出て行った。一方、アーラシュは残されたベッドを見て苦笑いした。


「まぁ、そもそもベッド2台じゃな」

「あ、そういやそうだな。体格的に、俺とどっちかが一緒になった方がいいだろ」

「…マスター、そこは僕一択で考えて欲しいところなんだけど」


さすがにアーラシュとアーサーが一緒に寝たらベッドが壊れる、と思って提案した唯斗だったが、アーサーは口元を引き攣らせてそう言った。確かに、アーラシュと一緒に寝るなんてことになれば、アーサーが黙っていないだろう。


「いんやセイバー、ここは平等にジャンケンといこうじゃないか」

「千里眼持ちがジャンケンを平等な決め方と言うとは、さすがに品がないだろうアーチャー」


アーラシュはニヤニヤとしている。完全にからかっていた。唯斗は今回ばかりはさすがに自分もデリカシーがなかったと思ったため、アーサーに味方する。


「悪いアーラシュ、さすがに俺が今回は配慮足りなかった。俺がアーサーと寝る」

「マスター…いやわりと君いつも配慮足りてないけれどね、こういう方面では」

「てめぇ」


甲冑を消していたため、アーサーの腹に軽く拳を入れると、アーサーは楽しげにそれを受け止めて唯斗の頭を撫でた。

そんな二人を見て、アーラシュは宛がわれたベッドに腰掛けつつ呆れたようにした。


「さすがに目の前でイチャイチャされんのは面白くねェな」

「おや、嫉妬かい?」

「当たり前だろ……あぁ、そうだ」


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