伝承地底世界アガルタII−11
翌日、カルデアとレジスタンスの大部隊はエルドラドに急襲をかけるため、西の密林へと足を踏み入れた。
川沿いに歩きながら、黄金郷を目指す。
密林だけあって蒸し暑い気候だが、第七特異点で経験したケツァルコアトルの森よりは涼しい気がした。南米の再現にしては、いくらか不完全だ。
不完全、と言えば、すべてがそうだ。もともとパッチワークのような空間だったが、これまでの二つの国や今いるエルドラドの勢力にしても、どこか認識と食い違っている気がするのである。
「マスター、どうかしたかい?」
考え事をしているのが分かったのか、隣を歩くアーサーが問いかける。結局昨晩は一緒に寝たが、おかげでぐっすり眠ることができて調子がいい。
「あぁ…なんかこう、全部違和感があるんだよな。全然違うってわけじゃないけど、本物でもないっていうか…全体的に、なんか作り物みたいだ」
「というと?」
少し曖昧なことを言ってしまったからか、アーサーは首をかしげる。唯斗としてもあまり明瞭な疑問というわけではない。
『おや、君がそう言うとは珍しい。現地調査員の、それも君の違和感ならあらかじめ聞いておきたいね』
通信からダ・ヴィンチも詳しく述べるように言ってきた。唯斗は少し言葉を悩みながら、順番に述べた。
「まずイースは、現地でも言ったけど、とても当時のブルターニュには似ていなかった。フランスだけど、北東部からドイツ国境にかけての、フランスって景色を一般化したような街並みだった」
故郷ブルターニュの色味の乏しい素朴な街並みではなく、イースはカーンなどのフランスの有名な港町を一般化したような景色であり、近世以降の様式にも見えた。
「そんで不夜城。武則天がなんで不夜城に住んだのかがまず謎だ。名前を変えることが好きだった武則天が、自分の暮らす街を洛陽とか、そういう縁のある名前にしなかったのが解せない。不夜城は春秋戦国時代から前漢にかけての古代の伝説だ、7世紀の武則天に縁はない」
不夜城は紀元前の中国山東省における伝承であり、洛陽で過ごした武則天には関係のないものだ。同じ中国であるという共通点しかない。桃花源記に描かれる桃源郷の存在も少し不可解だ。
「何よりこのエルドラドだな。アマゾンがこんな熱帯雨林なのは変だ」
「え、アマゾンってこんな感じじゃないの?」
聞いていた立香がきょとんとする。それは間違いではない。通信でも、ダ・ヴィンチが『確かに』と頷いた。
『南米のアマゾンはあくまでギリシア神話のアマゾネスから名付けられたもので、エルドラドも南米の伝説だ。アマゾネスたち自身は関係がないんだ』
「そう。アマゾネスが暮らした黒海沿岸もこんな気候じゃない。でも立香、このジャングル、バビロニアで経験したケツァルコアトルの密林より険しくないだろ」
「そういえば…確かに蒸し暑いけど、ウルやエリドゥにあった密林より全然マシかも。中途半端っていうか」
確かに南米のアマゾンはアマゾネスが由来だ。しかし、アマゾネスたち自身は南米に縁はない。もちろん、黒海沿岸も温暖でこんな熱帯ではない。
「エルドラドのバーサーカーは、アマゾネスのクイーンである以上、ペンテシレイアである可能性が高い。まともに描かれたアマゾネスのリーダーはペンテシレイアだけだからな。でも、なんで無関係のエルドラドを居城とするのか、そこが不透明だ」
『南米のサーヴァントである可能性もないわけではない、ということだね。私としても、アマゾネスの女王といえばペンテシレイアしか英霊になれる器はないと考えているけれど、これだけ異質な空間だ、予断はお勧めできないね』