伝承地底世界アガルタII−13


本拠地である桃源郷に戻ってきたときには、全員疲労困憊していただけではなく、男たちは半分以上が殺されたことにメンタルも打ちのめされていた。
誰もが喋ることもできない失意と疲労に見舞われている中、ライダーはつとめて明るく激励し、「まずは飯を食って寝ろ!」と発破をかけた。

そうして誰もが寝静まった夜、それは起こった。


「…マスター、起きて」

「ん……なんだ、アーサー」


同じくベッドで寝ていたアーサーに起こされた唯斗は、その声音から起きてすぐに緊張感を持ち、なんとか意識をクリアにしようと起き上がる。
途端に、鼻をつく煙の臭いに、一気に思考ははっきりとした。


「火事か」

「ああ、それも桃源郷全体が出火している。ここも危ない、すぐに移動しよう」


唯斗はアーサーとともにベッドから出ると、急いで小屋の外に走る。
そして桃源郷を見渡すと、あらゆる建物や桃の木から火が出ており、夜空を赤く染めていた。


「な…っ、敵襲か!?」

「いや、アマゾネスの姿はねェな」


先に周囲を見渡していたアーラシュが答える。その険しい目に映る光景は、まるで地獄のようだった。
ギルガメッシュも現れて、厳しい表情を浮かべる。


「敵性体が侵入した形跡はない。恐らく…」

「内部の犯行…?いや、さすがにそれはまだ誰にも言えない。とりあえず鎮火してから考える、まずは生存者の救出だ。アーラシュとギルガメッシュは霊体化して捜索してくれ。アーサー、一番離れた対岸の小屋から行こう」

「了解した」


アーラシュとギルガメッシュは霊体化して捜索を始め、唯斗もアーサーと道を川へと下っていく。途中、立香とも合流し、立香には救出された男の看護を頼んだ。デオンとアストルフォはすでに霊体化して捜索活動に入っているようだ。

そうしてアーサーと二人で何人か助け出すことに成功したが、翌朝、火災が静まった頃には、変わり果てた桃源郷の姿が広がっていた。


朝になり、天上の光苔が惨状を照らす。

焦げた臭いが辺りに満ち、建物はすべて焼失し、桃の木々も焼け落ちている。川には灰と瓦礫が浮かび、ところどころから白い煙がまだ立ち上っていた。
高台で救護をしていたまま夜が明けたため、少し寝不足ながら、その惨状に意識ははっきりしていた。

すべてを失ったレジスタンスたちは、茫然自失としたあと、次第に絶望感から気が立っていく。
「これからどうすんだ!?」「知らねぇよ!!」そんな怒鳴り声が響いたところで、ライダーが男たちの前に仁王立ちした。


「どうするかなんてのは…決まってンだろが。俺が今までずっと言い続けてきたことだ。諦めずに、前へ。俺たちにできることはそれしかねぇんだ。確かに全部なくしちまった。だからこそ俺たちは言わなきゃならねぇ。『だからどうした』ってなァ!」


ライダーの覇気ある声に、沈んでいた男たちの表情の活力が戻っていく。鼓舞された男たちに、生気が宿っていく。


「何度でも言ってやる!終わるまでは、どんなことも終わっちゃいねぇんだ。だから、諦めない限り…夢は必ず叶う」


そんなライダーの激励に、男たちはついに浮揚した。まだいける、まだ戦える、まだ生きている。そんなことを互いに言い合って、明日への希望を取り戻したのだ。

そのカリスマ性にカルデア側も驚いていると、ライダーはシェヘラザードに目を向ける。


「さて、あとはお前さんの仕事だ。このあとどうする」

「……はい。立った今、思い浮かびました。この戦力で奇襲をかけます。いえ、特攻、ということになるのかも、しれませんが」


シェヘラザードは次の作戦をこの場で立案した。それは奇襲という名の特攻。ライダーはにやりとしつつ、続きを促す。


「特攻上等だが、昨日と同じことになりゃしねぇか?」

「同じではありません。方法に、方式に、経路に、明確な違いがあります。ポイントは3つ、数が減ったこと、帰路を気にしなくてよくなったこと、そしてあなたです」

「あ?」


シェヘラザードはライダーが要だと指摘した。ポカンとするライダーに、シェヘラザードは言葉を続ける。


「今までも、その衣装や戦い方からして予想はしていましたが、先のやりとりで確信を持ちました。あなたは自分を含む配下の人員を、ひとつの生き物のように、目的に対して突き進むものとしてまとめ上げ、導く才を持った者。あなたは、船長のサーヴァントです」

「…なるほど、水路から侵攻するのか」


唯斗はシェヘラザードの意図に気づいた。人数が減って船での移動ができるようになり、もはや帰る場所もないため、退路を確保する必要もない。
ならば、船によってエルドラドまで突っ込んでいくことも可能だ。

シェヘラザードは頷いて、そのあとは詳しい作戦の協議に入った。

イースから奪った船による川の遡上、船上での戦闘方法、予想される迎撃態勢などをカルデアのシミュレーションも合わせて検討していく。
やがて、正午前にはすべての作戦がまとまり、イースから奪った船舶が係留された沢へと向かうことになった。


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