伝承地底世界アガルタII−14
いよいよ本格的なエルドラドとの戦いに備え、残った物資をかき集めて準備に入るレジスタンスたち。
それを横目に、最後の休憩を各自が取っているところで、ギルガメッシュは唯斗を呼び出した。
「唯斗、来い」
「え、分かった」
ギルガメッシュに呼ばれ、唯斗はアーサーとともに集団から離れた廃墟の影に向かう。アーラシュも気になるのかついてきていて、なぜか4人で隠れる形になった。
「どうかした?」
「お前は、昨晩の火災の犯人を誰だと推測している」
ギルガメッシュのまっすぐな問いと、紅の瞳の鋭さに、唯斗は逃げられないな、とすぐに確信した。これは、唯斗がすでに推測していることを理解している。
ちらりと通信機を気にした唯斗に、ギルガメッシュはすぐに魔杖の一つを取り出した手をかざす。
途端に、周囲に音声を遮断する結界が張られた。これでカルデアには音声が届かない。
「…ギルガメッシュが言ったとおり、あれは内輪で起こったものだ。アマゾネスじゃない。こんな回りくどいやり方する奴らじゃないからな。そんで、これだけのことをするヤツとして考えられるのは…あのライダーだ」
「な、しかし彼はあんなにも人々を率いて立派なリーダーシップを発揮しているよ?」
アーサーは驚いたようにする。アーラシュも目を見張っているが、ギルガメッシュは同じ意見のようだった。
「真名も推測できているな」
「あぁ。あれは多分、コロンブスだ。クリストファー・コロンブス」
大航海時代、スペインの海外拡張のきっかけとなった航海者の一人だ。
コロンブスはイタリア北西部、当時は都市国家だったジェノヴァの生まれである。コロンブスの友人であるフィレンツェの学者トスカネリが、地球球体説を唱えたことで、コロンブスは西回り航路を開拓したのである。
そもそも大航海時代とは、ルネサンス運動によって生じた現象だ。
1453年、ビザンツ帝国が崩壊し、オスマン帝国がアナトリアとコンスタンティノープルを支配するようになると、ビザンツの学者たちは一斉にイタリアへと避難した。
同じ頃、ローマでは古代ローマ帝国の遺跡の発掘が行われており、ギリシア時代の彫刻であるラオコーンが発見される。
ローマ帝国の滅亡によって西欧は文明を失い、写実的な芸術が楽しまれた古代から著しく退行、のっぺりとした中世芸術に甘んじた。
それがラオコーンの発掘によって、古代文明のあまりに写実的な芸術に感銘を受けた芸術家たちが、次々と古代の作品を掘り返していった。そうして、古代文明の芸術に立ち返ろうという動きが生まれる。
これが再生を意味するイタリア語、ルネサンスの端緒である。
このルネサンスは芸術分野で始まったもので、のちにミケランジェロやダ・ヴィンチが活躍するようになるが、一方でビザンツから亡命してきた学者たちがこれを手助けした。
なぜなら、ビザンツ帝国の前身は東ローマ帝国、古代ローマの延長にあった国であり、その文明を継承していたからだ。
そのため、ビザンツの学者は芸術から科学へとルネサンスの拡大をもたらした。
これによって、火薬や羅針盤、長距離航海技術が生まれる。
同時に、古代アレクサンドリアで地球が直径4万4000キロ(実際には4万キロ)の球体であることを証明したプトレマイオスの功績もイタリアにもたらされ、トスカネリがこれを引き継ぎ、地球は球体であると論じた。
やがてルネサンスは宗教へと拡大し、原始キリストに立ち返るべきだと説いたマルティン・ルターが宗教改革を開始し、プロテスタントが生まれることになる。
このとき、すでにポルトガルはアフリカ大陸を巡ってインドに出る東回り航路を商業利用しており、莫大な富を得ていた。
後追いするには、もっと速い航路が必要だったため、コロンブスはトスカネリの説を信じて、西へと向かった。西に行ってもインドに辿り着くはずだからである。
そうして、当時はまだ存在がいかなる文明にも知られていなかった、アメリカ大陸が発見される。
これを後援したスペイン王国は大半のアメリカ大陸を領土とすることに成功し、一躍世界最大の国家にのし上がる。スペインの最盛期であり、日本に南蛮人が渡来するようになった遠因でもある。
「コロンブスはアメリカ大陸を死ぬまでインドだと思い続けたし、今もなお、アメリカ大陸の先住民はインディアンと呼ばれるけど、のちにアメリゴ・ヴェスプッチによって新大陸だと証明された」
「とても偉大な英雄じゃないか」
アーサーはそんな人物が桃源郷に火を放つとはとても考えられないと疑問符を浮かべる。確かにそれはそうだ。コロンブスはその意味で、人類史に名を残した偉人だ。
「…コロンブスはな、先住民たちを人間だと思わなかったんだ。ひたすらに動物として扱った。楽しんで殺していたし、スペインによる奴隷貿易の先駆けになったんだ。コロンブスが来てからの4年間で、先住民の人口は3分の1にまで減少してる」
「奴隷貿易…そうか、彼が……」
「のちにスペインからやってきたコルテスによってアステカ文明は滅亡させられ、1万年続いたアメリカ古代文明はスペインによって徹底的に葬り去られる。だから、コロンブスは文明を滅ぼした巨悪の根源とされることも多いんだ」