伝承地底世界アガルタII−20


コロンブスの時代であれば黄金を理想とするのは無理もないが、一方でそのような富を集めても、サーヴァントの身では意味がない。
コロンブスがいったい何を目的としているのか、それは彼を警戒していたカルデアでも、そして唯斗も分からなかった。

さすがというか、立香が物怖じもせずに尋ねる。


「いったい何が目的なんだ」

「目的?んな当たり前なこと聞くなよ。そりゃお前、ここを支配することに決まってンじゃねぇか。お前さん、この地底世界をどんな世界だと思った?」

「…女が男を支配する世界」

「んー本質はそこじゃねぇ。女が無限に増えてくってことだ!お前さんも見ただろ?男の子種を胎に入れるだけで完成された女がズルリと出てくる。夢のような世界、まるで俺の願望を叶えたような世界だ。神様ありがとうと叫びてぇ気分だ!」

「そ、それのなにがいいんだ」


立香は本気で理解できないと眉を寄せる。唯斗はコロンブスの過去を考えれば検討はついたが、口にするのも嫌だった。


「おいおい、それも言わなきゃ分からねぇか?高く売れるからだよ。いろいろ使い道はあるが、ここの女は男よりも強い!しかもそれが、ガキを育てる必要もなく、男の種だけで無限供給できるだとォ?最っ高じゃねぇか!」

『……あなたは最低です、クリストファー・コロンブス。今の時代に奴隷制は肯定されません』


マシュがここまではっきりと嫌悪を示すことはそうない。直截な言い方であっても、コロンブスは気を害したようなこともなかった。


「あ?んなことは分かってんよ。だがそれがどうした。今のこの時代ではそうなってる、ってだけだろ?だが、俺はそれが良しとされる時代に生きて、今でもその価値観に基づいて動いてるってだけだ。大体、ギリシア人もローマ人もアラブ人も、つまりはお前らんとこにいる名高い英霊たちも!生前は澄まし顔で奴隷を使ってたに決まってんだぜ?」


コロンブスはあざ笑うようにこちらを見る。


「世界で最初に奴隷制を始めた古代メソポタミアの王!ローマ化したケルト人の王!異民族を人種差別で奴隷化し始めた最古の例たるペルシアの弓兵!ここだけでこれだけ揃ってやがる!」


確かに、世界最古の法ハンムラビ法典は、奴隷については明確に不平等な扱いを定めていた。アーサー王は奴隷制に立脚するローマ帝国の市民としてのケルト人という立場でアングロサクソンと戦った人物であり、古代ペルシアはアーリア主義によって異民族を人種差別する制度を体系化した。
コロンブスは言葉を続ける。


「『今の世はそうなのか、じゃああえて肯定して使うのはやめておこう』と考える英霊と。『今の世はそうなのか、でも便利で価値があるのは変わらないから続けよう』と考える英霊。そこにどんな差がある?誰が善悪を計る?だって俺は最初から、自然に、それが当たり前なんだぜ?」


その言葉で、頭にカッと血が上ったのを自覚した。


「ふざけるなッ!!」


唯斗がそう怒鳴ると、今度こそ立香たち全員が驚いた。唯斗がここまで声を荒げるとは思っていなかったようだ。


「お前と一緒にするな…!」

「ハッ、じゃあどう違うって?」

「古代の奴隷と近代の奴隷は違う!確かに地位は相対的に格差があった、でも、奴隷は確かに『人間だった』!人間としてすら見ていなかったお前ら近代欧州の人間とは違う!そもそもお前の悪行は女王イザベルにすら疎まれて教会からも目をつけられたものだっただろ!」

「マスター…」


アーサーは落ち着けとばかりに声をかけてくれる。アーラシュもギルガメッシュも、止めはしないが気にするな、という顔でもあった。それすらも許せなくて、唯斗はコロンブスを、今まで誰かをこんなにも睨み付けたことはないというほどに凝視する。


「何より、カルデアの英霊たちは、人理の継続のために、人類史の存続のために力を貸してくれた…!私欲で行動しようとする時点で、それはお前個人の人間性の問題であって、英霊そのものの話じゃねぇ!かつて経験した死の恐怖を知りながら、それでも俺たちのために戦ってくれた人たちを侮辱するな…ッ!!」


コロンブスはため息をついて呆れたようにこちらを見下す。若いねェ、なんて呟いて、意にも介さない様子だ。


「お前さんの言う人理ってのは、人類史ってのは、俺みたいなコンキスタドールがアメリカを開拓して初めて成立するものだろう?俺たちがいなければ、近代以降の歴史は生まれなかった。アメリカ合衆国も発生しなかった。それが歴史ってやつだ」

「だから歴史を繋ぐんだ。人は必ず間違えるし、相対的なものでしかない正しさを互いに衝突させ戦争をする。でも、そういう過ちを全部記憶して、改善して、防ぐための新しい歴史を作ることができるのも人類だ。俺たちは正しいものを繋ぐんじゃない、正解に至るまで歩んでるんじゃない。誰もがより良い明日を生きられる世界にする、そのための努力が続くために、俺たちは戦ったんだ」


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