伝承地底世界アガルタII−21
まだ怒りで腸が煮えくり返るような感じがするが、それを宥めるように、アーサーがポンと軽く唯斗の頭を撫でて前に出た。
「ありがとうマスター、僕らのために怒ってくれて。君の想いも覚悟も、七つの特異点探索でよく知っていたけれど、改めて伝わったよ」
「アーサー……」
「…それに応えずして何が英霊か。我がマスターの想い、すべてこの剣で貴様に叩き込んでやろう」
風王結界が解除され、姿を現す聖剣。
さらに、アーラシュも唯斗の肩を軽く叩いてからアーサーの隣に向かう。
「やっぱあんたのサーヴァントでいられるのは心地がいい。下がってな、あとは俺たちに任せろ。徹底的にぶちのめしてやる」
いつも温厚で冷静なアーラシュですら、ピリピリとした空気を纏っていた。怒り、というよりは、相手を倒そうという明確な殺気だ。だがそれは恐怖をもたらすものではなく、むしろ唯斗にとっては頼もしいものだった。
最後に、唯斗の前にギルガメッシュが庇うように立つ。これでコロンブスはギルガメッシュの肩に遮られて見えなくなった。
「生意気にも、ああまで言われて応えぬのは王の沽券に関わる。あぁ、あまり前に出るなよ。うっかり宝物庫にしまってしまうかもしれぬからなぁ」
「そうなったら次はあなたを討つからね、ギルガメッシュ王」
「よく吠える騎士王だ」
「おいおい、バチバチすんなお前さんたち」
そんなことを言いながら前に立って臨戦態勢となった三人を見て、コロンブスも身構える。立香も、ペンテシレイアが消失したことで戦闘する必要がなくなり戻ってきたデオンとアストルフォに指示を出す。
「なるほどねぇ、これが古代の王をも従えるマスターってやつか。うぜぇ話だ。俺のための奴隷たちが集まる夢の国まであと少しだってのによ。ま、新しい国の建国には犠牲がつきものだ。最初の桃源郷で殺したキャスターみてぇにな!」
「なっ、まさかエレナのこと…!」
『先輩、きます!』
ここにきて新事実として、エレナが実はすでにコロンブスに殺されていたことが発覚した。しかしそれに驚く暇もなくコロンブスとメガロスも戦闘態勢になる。
「さあ錨を下ろせ!新天地はすぐそこだ!!」
コロンブスがそう号令をとるのと同時に、メガロスが巨大な斧を一振りした。
その風圧で風が吹き付けたが、唯斗は前に立つギルガメッシュのおかげでほぼ風を感じない。
その体の後ろから見ると、アーサーが早速斬り掛かったところだった。
ギルガメッシュの天の鎖でメガロスの動きを止め、アーサーとデオンで斬り掛かる。アーラシュはコロンブスに弓を放って銃弾を相殺しつつ牽制し、アストルフォはメガロスとコロンブス両方に隙を見て槍による攻撃を仕掛ける。フェルグスは立香を狙う銃弾をすべて器用に剣で弾いていた。
しかしメガロスは、天の鎖すら何本か引きちぎって動き始めた。さすがにすべてから抜けることはできなかったようだが、それでも半身を動かせるようにしたその膂力は過去最強レベルである。
「…チッ、やはりエルキドゥのものでなければ完全に止めることは叶わんか」
「大丈夫だ、これだけ止められるなら間に合う。アーサー!宝具解放!」
唯斗はギルガメッシュの後ろから出てアーサーに呼びかける。アーサーは頷くと、メガロスの正面に立って十三の拘束を解除し始めた。
再び鎖が現れてさらに動きを止め、デオンとアストルフォがメガロスの意識を散漫させる。
コロンブスはアーサーを止めようと集中攻撃を始め、さらには宝具を解放して大量の錨を出現させた。
銃弾はアーラシュがすべて弾いていくが、錨は止まらない。
「ギルガメッシュ、宝具解放」
「よかろう。
王の号令!!」
ギルガメッシュは唯斗の指示に応じて、左手に石版を出現させると、大量のくさび形文字が浮かぶ。そして、背後に巨大なディンギルの砲台が数門現れて、宝具の一斉射出が始まった。
光弾となった宝具は錨を一つ一つ打ち消していき、アーサーに届く前に消滅していく。コロンブスが苛立ちで顔を歪ませた。
「
約束された勝利の剣!!」
そしてついに、エクスカリバーが解放された。令呪の魔力こそ籠められていないが、それは十分にメガロスを包む巨大な光線となり、背後の黄金の壁を貫く。この方向にもう奴隷がいないことは分かっている。
壁の黄金すら熱で融解し、そのまま光線はエルドラドの街の一角を飲み込んで、ジャングルを焼き払って川を一部蒸発させた。
轟音が止むと、崩れた壁から空と煙を上げる街が覗き、そして焼けただれたメガロスが膝を着いた。
『や、やりました!メガロス、行動停止です!』
「こちらもやったぞ」
エクスカリバーの衝撃の中で、デオンはコロンブスに回って切りつけていたらしく、コロンブスも床に血まみれで倒れていた。これで2騎を同時に仕留めたことになる。
しかし、コロンブスはなおもこちらを睨み上げる。
「まだ、まだだ…ッ!諦めて、たまるか…!」
「なにを…」
まだこの状況で食い下がるのか、と思っていると、コロンブスはおもむろに懐から箱を取り出した。見るからに大量の魔力が籠められたそれは、恐らく先ほど立香たちが言っていた玉手箱というやつだろう。
「ハーッハッハーッ!!へそくり万歳!さあ弁当を食わせてやるぞメガロス!!」
瀕死のメガロスに玉手箱を与え蘇生させる気だ。まずい、と思ったその瞬間、矢が放たれて玉手箱が弾かれる。
アーラシュではない。それを打ったのは、レジスタンスの男の一人だった。
「…当たるなんて思ってなかったけど。諦めずにやってみたらできた。本当に、諦めないのは大事だったぜ。船長、あんたが言ったことだ」
「こ、の…値段もつかねぇ駄奴隷がぁッ!!非常食の鼠以下だぞテメェ!!!」
「語るに落ちたな。では、あなたの価値はそれ以下ということです」
その隙を逃さず、フェルグスが目にも留まらぬ速さで回り込むと、コロンブスの脇腹を叩き切った。
致命傷だ。コロンブスは呻いて今度こそ倒れる。
いよいよこのまま魔神柱が姿を現す、今までであればそうだった。
しかし、カルデアがそう思っていたのとは裏腹に、コロンブスもメガロスも消失の光に包まれる。
「あぁ…諦めねぇ……諦めねぇぞ……」
最後にそう言ってコロンブスは消失する。メガロスも続けて光とともに消えていった。
2騎は完全に消失し、戦闘が終了してしまったのである。勝利の喜びより、驚きだけがその場に満ちる。
もはや残されたサーヴァントはたったひとり。
唯斗は愕然として、彼女を振り返る。
「…シェヘラザード、あんた……」
「皆様ありがとうございます。物語が、成りました」