伝承地底世界アガルタII−26
アーラシュは頭から血を流しながら黄金の瓦礫の中に立ち上がり、なおも矢を引く。
アストルフォはヒポグリフを維持できず立ち上がるだけで精一杯という感じであり、デオンも左手をだらりとさせ血のしずくを地面に垂らす。フェルグスは地面に倒れて呻いていた。
ここまで攻撃が入らない魔神柱は初めてであり、正直、極めて苦戦している。
「っ、くそ、まずいなこれは…」
状況の悪さに唯斗は舌打ちをつき、立香も顔を険しくしていた。
すると、アーサーが唯斗に静かに声をかけた。
「マスター、ひとつ案がある」
「なんだ?」
「この剣を、一緒に持って欲しい」
アーサーの提案は一瞬頭を素通りし、少し遅れて理解した唯斗は、バッとアーサーを見上げる。
「なっ、はぁ!?」
「驚くのも無理はない。大丈夫、僕も持つから、二人で剣を構える形だ」
「…、そうか、半分は俺の攻撃ってことにして、特防効果を半減させるってことか。元の威力が強い攻撃なら、半分だけでも大ダメージになる」
「そういうこと」
『ヒュウ、あのエクスカリバーでケーキ入刀ってことかい?やるじゃないかアーサー王』
聞いていたダ・ヴィンチは楽しそうに言うが、否定していないあたり、妥当な案だと考えているようだ。
それにしても、聖剣でケーキ入刀とはとんでもない表現だ。ケーキにしては禍々しすぎるが。
「やるなら疾くせよ騎士王。貴様らの阿呆な攻撃を援護できるのも一度だけだぞ」
「十分だ。さすがに誓いのキスまではしない」
「たわけ」
さすがの唯斗もギルガメッシュに完全に同意だ。何を言っているんだこの男は、と思いつつ、結界を纏っていない聖剣の柄を示され、唯斗は唾を飲み込む。まさか、この剣に触れるときが来るとは。
アーサーは右手だけで唯斗を抱え上げると、左手で聖剣を握る。アーサーの右腕に座るようにして抱き上げられた唯斗は、自分の右手で恐る恐る、アーサーが持つエクスカリバーの柄に触れた。
金属の冷たさはなく、魔力が渦巻く暖かさがある。アーサーの左手がより刀身に近い方を持ち、唯斗の右手は身体に近い方でずらして持つ。これで、二人がエクスカリバーを握りしめていることになる。
唯斗は客観的に今の体勢を見て我に返る。
「………なんだこれ」
「今更だよマスター。さぁ、行こうか」
「いや絶対おかしいだろこれ!!」
唯斗の言葉を無視して、アーサーは走り出す。こんな馬鹿馬鹿しい攻撃があるか、と思ってしまうが、しかし理論上確かに攻撃は入る。
魔神柱はこちらに攻撃を仕掛けてくるが、すべてギルガメッシュが的確に結界と魔杖の光線で相殺していく。こちらの進路を確保しつつ魔神柱の様々な攻撃を瞬時に捌いていくのだ、ギルガメッシュもかなりエネルギーを使っているだろう。
もはやヤケクソになった唯斗は右手の甲に魔力を籠め、叫ぶように宣言する。
「令呪を以て誓う!これで絶対倒すからな!」
「はは、当然さ!愛は勝つからね!!」
「マジで覚えてろアーサー!!!」
そんなこと言いつつ、アーサーは魔神柱の手前で跳躍し、魔神柱の目の前に躍り出る。
そして、二人で握るエクスカリバーを、アーラシュが潰した眼球の内側にひしめく肉壁に突き立てた。
同時に聖剣に漲る魔力を最大解放し、眩い聖なる輝きが魔神柱の内側に向かって迸った。
さすがに真名の解放による十三拘束解除で攻撃すると唯斗の体が保たないため、魔力放出だけに留めているが、令呪も籠めているため十分だった。
魔神柱は悲鳴を上げながら全身に亀裂が走り、その隙間から魔力の輝きが漏れ出し、そして内側から爆発を起こして霧散した。
爆風から唯斗を守るように、魔神柱に背を向けて唯斗を抱え込みながら着地したアーサーは、衝撃波を浴びながら振り返って笑う。
「倒したよマスター」
「……そりゃ、よかった」
もうそれしか言えない。唯斗はげんなりとしつつ、粉塵の中に立ち上がる人影を見て、アーサーから離れて立ち上がった。立香たちも駆け寄ってきて、よろめく姿を見つめる。