伝承地底世界アガルタII−27



「ああ……フェニクスが。私の、ただ一人の理解者が…」


煙が晴れると、瀕死のシェヘラザードが消えた魔神柱を嘆き、そして再び地べたに座り込んだ。力なく座り込むシェヘラザードだが、その口元には笑みが浮かんだ。


「…ですが……ふふ、ふふふふ…魔神が消えても、私が死んでも。このラピュタはすでに結実している以上、あとはただ墜ちるのみ!物語ではない現実として!」


ここは中国のチベット自治区の南西端国境付近であり、今ならまだこのラピュタを破壊しても人的被害は抑えられる。だがその手段がない。


「…アーサー、エクスカリバー何回分でこれ破壊できる?」

「魔力で構成されたひとつの事象そのものだ、これを破壊しきるには、少なくとも3、4回は必要になる。当然、君の魔力が保たない」

「くそ…、インドの防空識別圏に入れば核ミサイルで吹っ飛ばすこともできなくはないだろうけど、その時点で神秘には致命傷だ…」


現状できる手段としては、アーラシュに令呪を使ってステラによる粉砕を実行したあと、一番大きな塊の二つをエクスカリバーで消失させ、残りをギルガメッシュの迷彩で隠し、主立った破片を全員でなんとか地面にたたき落とすということくらいだろう。それでも被害が出てしまうが、迷彩があればまだ隕石や何らかの災害として処理できる。

そこに、倒れていたフェルグスが瀕死のまま立ち上がり、剣で体を支えながら、シェヘラザードの近くまで向かった。


「このまま死んでは…それこそ未熟者…!」

『で、ですがフェルグスさん、その霊基ではもう…!』

「…マシュ、心配だけど、任せよう」


フェルグスには何か考えがあると判断した立香は、静観を指示した。唯斗の方も見たため、唯斗も立香がそう言うなら、といったん待つことにする。最悪のラインまであと数分だ。それがタイミリミットとなる。


「…物語からこぼれ落ちた勇士の半ばよ。あなたが何をしようと、このラピュタは消え去りません」

「否。僕が消し去るのは、あなたの死に対する恐怖です、シェヘラザード」

「……?」


フェルグスはシェヘラザードから数メートル離れたところで止まり、淡々と語り始める。


「あなたは強い女性だ。魔神柱の助力があったとはいえ、こんな物語を計画し、構築し、実行した。あなただけじゃない、このアガルタにいた女性は、皆、強かった。それぞれ異なる意味で、異なる在り方で強かった。おかげで僕は、自分の見識の狭さを実感しました」

「それがなんだと言うのです。女の強さを知ったから、女に手をかけることができるようになったとでも?」

「いいえ。大事なことは、きっと。生きていた僕も、いずれは気づいたのだろうということです。ぼんやりとですが、思い出す名があります。メイヴ、スカサハ、オイフェ…それらは僕が完成されたあとに出会った女性ですが、きっと、それ以前にも強い女性に出会っていたはずです。そして気づいていたはずです、男と女の在り方に」

「なんの、話ですか。あなたの昔語りになど、意味はありません」

「いいえ、意味はあるのです」


幼い容貌ながら、フェルグスは終始、何かをずっと考え続けていた。その冷静さと胆力は、間違いなく、アルスター物語群に語られる神話の王に通ずるものだった。
フェルグスは、己がこの姿でアガルタにおいて体験したことはすべて、いずれその身で知ることを追体験したに過ぎないと語る。


「アガルタには様々な在り方の国があり、どれも長所と短所があった。僕は根が単純なので、その複雑さを解決したがった。誰もが納得のいく国はないものかと考えていました。考えて考えて考えて…そして気づきました。いやぁ、ははは。王とか僕には無理!!!!」

「は…?今いい話をしていませんでしたか、あなた!?」

「いい話ですよ。ある朝気づいたんです。僕では足りない、僕は王の器ではないと。皆さんは優しいから黙ってくれていたけど、今の僕には分かっています。僕は王になれなかった。もしくは、すぐに放り出した。違いますか?マスター」


フェルグスの問いに、立香は頷く。ケルトの英霊とは縁が多いため、立香もこのあたりはしっかり学習済みだ。


「うん、フェルグスは王位についてすぐ、それを愛人の子に譲ってコノートに渡ってる。それ以来ずっと戦士であり続けた」

「そうでしょうね。僕は気づいていたんです。自分はせいぜい、自分が欲しいものだけを大事にすることだけが精一杯の男だと」

「欲しいものって?」

「当然、この答えになります。戦いと女です」


フェルグスはフェルグスだということなのか、それとも特異点探索の中で徐々に本来のフェルグスの霊基に寄せられていったのか。いずれにせよ、シェヘラザードは苛立ったように遮る。


「ですから…何の話、なのですか!あなたの物語は散漫にすぎます!!」

「ええ、僕は語り部ではなく戦士なのでそこは諦めて欲しいのですが…仕方ない、本題に入りましょう。とにかく僕は女性の強さを知りました。あなたはどうですか?シェヘラザード」

「なんの…ことです……?」

「このアガルタは女性優位の世界として作られた。世界の核となっているのはコロンブスの願い、奴隷で大儲けすること。しかしそれが女である必要はなかったはず。ヤツは男の世界であっても喜んで同じことをしたでしょう。いったいなぜです?」


確かにフェルグスの言うとおりだ。この世界は、シェヘラザードが物語を継ぎ接ぎにして合成しつつ、その核となる要素にコロンブスを取り入れ、奴隷が横行する社会制度の国が生まれるようにした。だがそれは、女性優位である必要はなかった。


「それは……それは……?」

「無意識だったのですね。僕が思うに…それはあなたが本質的に『男』という存在を『死をもたらす者』だと恐れているからですよ。だから管理したかったし、飼育すべきだと思った。そうあって欲しいと願った。あなたが添い遂げたという王のせいでしょう」

「……だとして、それがなんだと言うのです」

「だからこそ僕は声を大にして言わなくてはならない。それは違うと!僕だからこそ、はっきりと伝える必要があるのでしょう。僕が掴んだ真理を」


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