悪性隔絶魔境新宿I−15
そうしてアーチャーとは別行動となり、相変わらず夜の街へと出た。
コロラトゥーラを探して代々木エリアを歩き回ることになり、たまにチンピラを蹴散らしながら進んでいく。ちなみにこの辺りは実は渋谷区である。
「それにしても、カルデアからサーヴァントを呼べないっていうのはこういうときに不便だな。オジマンディアスなら焼き払えたのに」
「確かにね。マシュの盾がないとターミナルポイントが設置できないっていうの、レイシフトしてから気づいた。俺もアーチャーのギルガメッシュに宝具の雨を降らせて欲しかった…」
「うっわ、フランスの頃からは考えられない戦力ね、引くわ」
グランドオーダー中ならゴリ押しで行けた部分が、マシュの不在によってカルデアからサーヴァントを呼べないという制約があり、地道な方法をとらないといけなくなっている。
とはいえジャンヌとフランスで戦ったときには、そもそもカルデアにはエミヤとキャスターしかいなかった。
『すみません、お役に立てず…』
「ううん、こうして通信でフォローしてくれるだけでありがたいよ。頼もしいサーヴァントとも合流できたし」
マシュも忸怩たる思いをしていることだろうが、立香はマシュに、普通の少女の体に戻ったのであれば、サーヴァントではなく年相応の少女としての生活をして欲しいと思っている。そんなすれ違いは、しかし二人の絆の前には些末なことだ。
そうして話しているうちにコロラトゥーラと遭遇し、襲われていた人々を逃がしつつ一体を捕獲することに成功した。戦闘不能にしたコロラトゥーラをひょいと軽々抱えたアーサーは、その人形を見て顔をしかめる。
「どうした?アーサー」
「いや…藤丸君、巌窟王は、君に耐えろ、と言ったんだったね」
「うん…気高さをなくさない限り俺は俺だって」
「…なるほど。確かに、その通りだ。その通りだよ、藤丸君、マスター」
珍しいアーサーの様子に、唯斗と立香は揃って首をかしげる。アルトリアは理解しており、ジャンヌは怪訝にしていた。
とりあえずはそのままねぐらに戻ることになり、アーサーがコロラトゥーラを運んだ。
地下室に戻れば、アーチャーが先に帰ってきていたようで、「無事に捕獲できたようだネ」と出迎える。
「…ふむ、予想通りか」
「知っていて運ばせたのか?貴様の趣味は最悪だな」
「我々が戦う相手がどういう神経をしているか、知っておいた方がいいと思ってね」
アルトリアは吐き捨てるように言うが、アーチャーはあっけらかんとしている。アーサーといいアルトリアといい、何に気づいたのだろうか。アーサーは必要ならば自分から伝えてくれるため、唯斗はとりあえず何も聞かなかったが、そろそろ教えて欲しかった。
いや、この胸騒ぎに答えが欲しかったのかもしれない。コロラトゥーラがなぜ36時間で元の数に戻るのか、なぜ人を攫うのか、その理由に、薄々感づいているからだ。
端的に考えれば、人形の生産に人間を使うということが意味するのは、人間を「素材」にするということだ。
「さて、顔を開くと…」
アーチャーはそう言って、長机に横たえたコロラトゥーラの顔を開いた。プラスチックのような顔のパーツを外すと、その中には生々しい肉感が姿を現す。
「ッ!やっぱりか…」
脳、眼球、筋肉に神経の筋。
「うわ、何これ」
『これは…っ!』
『…人間の脳だね。目も神経も、すべて人間のものだ』
ダ・ヴィンチの冷静な分析を待つまでもない。それは、皮膚を剥いだ人間そのものだ。
息を飲んだ立香に、アルトリアはその肩を引いて離れさせる。
「マスター、あまり覗き込むな。疵になる」
「…、う…ッ、」
吐き気を堪えるように立香は口元に手を当てる。
アーサーは険しい表情で、唯斗の肩を抱き寄せた。アーサーの甲冑の冷たさと慣れた匂いに、唯斗は目を閉じて視界を遮る。
アーチャーはいったんパーツを戻して中身を隠してから、真剣な声音で話を続けた。