悪性隔絶魔境新宿I−16


「さて、問題は二つある。一つ目、人間を人形とする目的は何か。二つ目、この人形は救えるものなのか」

「単なる魔術としての人形操作であれば、人間を使う必要なんてない。もちろん、人間の魔術回路を使うというのも手ではあるけど、量産するなら個体差がある魔術回路を使うよりゼロベースで魔術で構築した方が合理的だ」


唯斗は目を開けつつ、肩に回されたアーサーの手をそっと握りながら魔術の常識を述べる。アーチャーはこちらに見えないように他のパーツを開きながら頷いた。


「その通り。これは魔術としての合理的な方法ではない。見れば見るほど制作者のポリシー、美学めいたものが如実に伝わってくる。どうだい、レオナルド・ダ・ヴィンチ」

『あぁ、当代きっての芸術家だからね。この作り手の志は嫌でも分かるよ。これは嫌悪と潔癖。人の姿を醜いと断じる嫌悪、人でない人を美しいと思う潔癖、それら二つが合わさったものであり、作るのは単なる趣味でしかない』


ダ・ヴィンチの言葉を聞いて、立香が信じられないと目を見開く。


「…意味はない、ってこと…?」

『そう。戦力として必要とか、そういうことじゃない。単なる芸術品のつもりなんだよ』

「な…っ、」


愕然とする立香だったが、アーチャーは淡々と追い打ちのように言葉を続けた。


「二つ目の疑問、彼ら彼女らは救えるかどうか、だが…答えは『救えない』だ。そもそも人形にされた時点で精神は崩壊している。生きているのではない、生かされているのだ」


皮膚を剥いで、骨と血を抜き、人形のパーツに押し込める。人体模型のようにそぎ落とされていく自分たちを見て精神を保つことはできない。
アーチャーの話では、彼らは一度死んだわけではないようだ。行動パターンをプログラムされているのであれば、脳死でもないだろう。彼らは生きたまま、人形にされ、その過程で精神を失った。麻酔などで眠らせるような「人道的な」ことはしていないかもしれない。

いったいそれがどれだけのものか考えそうになったのを察したのか、アーサーが肩を抱く力を強くした。思考の海に沈む前に戻ってこい、という意図だろう。
思わずアーサーの顔を見上げると、アーサーは悲しそうに微笑んでから、唯斗の頭をそっと一度だけ撫でる。

唯斗は大きく息を吸ってから、目の前のことに集中した。考えない方がいいこともあるのだ。


「彼らは無残に死に、無残に壊れた。それを許せないと思うのはいいのだけど…私はこの人形を悪用しようと思うのだが、マスターはどう思うかね?」

「待て、何をする気だ?」


アルトリアは眉を寄せながら詰問するようにアーチャーに問いかける。アーチャーは端的に答えた。


「この人形に爆弾を仕掛ける」


アーチャーの案では、この人形に爆弾を仕掛け一度歌舞伎町に戻し、歌舞伎町のコロラトゥーラたちに紛れ込ませて爆破、秩序が乱れて混乱している隙に大本を叩くというものだった。
アルトリアは嫌悪感を抱きつつも頷いた。


「まぁ、合理的ではあるな」

『待ってください、でも、それは…!』

「いいじゃないの、これはただの人形、もう自我はないわ。遠慮しなくていいでしょう」


マシュはすかさず懸念を表するが、ジャンヌは飄々と言った。いや、わざとそう言っている。これはもう人間ではないと明瞭な言葉で言うことで、罪悪感を和らげようとしてくれているのだろう。なんだかんだ、根本はやはりあの聖女をベースとするだけある。
ずっと黙っていたアーサーは、そこでようやく口を開いた。


「新宿のアーチャーよ。君は藤丸君とマスターに何を選ばせるつもりなんだ?」

「この新宿で真に戦えるか、ということの証明サ。毒を以て毒を制すという、この新宿での戦いを果たせるか否か、それを問われることになる。君たちは爆弾のスイッチを押せるかね?…この人形を改造するまで時間がある。考えておいてくれたまえ」


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