伝承地底世界アガルタII−29


しかし魔神柱は衝撃波を放ち、武則天を吹き飛ばした。武則天は黄金の柱に叩き付けられ、血を吐き出す。もともと不夜城の戦いでの傷も癒えていなかったのだろう。
心配する立香に、咳き込みながら武則天は叱咤する。


「何を惚けておる馬鹿者!いくら死と再生の悪魔といえど、生き続け死に続けている状況なら殺せよう!!はやくとどめを刺さんか!!」


かなり乱暴だが、理に適っている。生と死がバランスを取って両立することがこの魔神柱の力ならば、その両方が同時に存在している状況下で死に振れれば、殺し切ることができる。
ただ、戦おうにも魔神柱は最後の抵抗で暴れており、毒沼と化していることもあって易々と近づけない。

だが、フェルグスが立ち上がった。


「…なるほど、このために僕が呼ばれたのですね」

「フェルグス…?」


立香が呼びかけると、フェルグスはにこりと微笑んだ。


「皆さん、あとは頼みます。なに、僕は端役なので、消えても大筋に影響はないでしょう」


そう言って、フェルグスは毒沼の中に飛び込んだ。苦悶の声を上げるフェルグスに、武則天すら動揺する。


「なんじゃ!?あいつはなぜ妾の宝具に入った!?」

「ここは…拷問の痛苦を鋳型に形作られた生と死の坩堝。それらの概念が入り交じった一種の異世界とみました。だからこそ、この中で僕が死に、そして生まれ変わることで、やり直す機会が生まれるでしょう」

「まさか、一度死ぬことで本来のフェルグスの権能を取り戻す気か!?」


唯斗はフェルグスの意図に気づいて愕然とする。わざわざ自分から、よりにもよって武則天の宝具という苦痛の中で死を選び、異なる自分の力を引き出すとは。その覚悟、決意、計り知ることもできないものだった。


「ぐ、おお、おおおおおッ!!!」


呻きながら、フェルグスの霊基は軋んでいく。やがてそれは限界に達して、消失の光に一瞬だけ包まれた。
直後、フェルグスは変わらず毒の中に立ち、その手に巨大な槍のようなものを手にしていた。


「っ、伸びろ…!!」


フェルグスはなおも呻く。その言葉とともに、槍は伸びていく。


「伸びろ、虹のごとく。等しき無限長。されど剣。それすなわち螺旋の剣なり!!」


槍のような形状の独特の長剣が、眩い光とともに姿を現した。本来のフェルグスが持っていた宝具だ。


「故に曰く、螺旋虹霓剣!!」

「あれは…!」


唯斗のすぐ隣で見守っていたアーサーが目を見開く。当然、ケルト神話の多大な影響を受けたブリテンの王ならば知っているもの。


「大地を切り裂き丘をも砕く神話の大剣…」


適当に振りかざすだけで3つの丘を破砕したという、ケルト神話のチート兵器の一つ。ゲイボルクと同じく神の力を宿す超常の剣だ。


「『俺』はこれで諸共に砕こう。永遠の生と死に惑う魔神の柱を。そして、この足下の、幻想の名に浮かぶ大地を!螺旋の彼方に溢れよ虹霓!」


フェルグスの言葉に合わせて、その場に渦巻く大量の魔力が螺旋状に集積していき、フェルグスの剣に収束していく。両手でそれを構えたフェルグスは、まっすぐ足下にその剣を突き立てた。


極・虹霓剣(カレドヴールフ・カラドボルグ)!!!」


そして放出された莫大な魔力は、螺旋状に大地を穿つ。エネルギーはラピュタ全土に渦を巻くように迸り、大地が螺旋の形にひび割れる。轟音とともに揺れ動く大地は、確かに崩壊を始めていた。


「ああ、やめて、やめてください…ラピュタが壊れてしまう…!」


ついにシェヘラザードも、抗えない破砕を前にラピュタの終わりを予感したのか、悲痛な声をあげる。それを聞いたフェルグスは、剣を支えながら笑った。


「男と女には、大事な役割があると。教えたのにな。その先が、まだ、分かっておらんのか」

「…っ!?」


宝具の権能の回復とともに、記憶や人格も本来のものに引っ張られているらしい。フェルグスの言葉を聞いたシェヘラザードは息を飲む。


「死に怯えて生きるのはよい。それは誰しもが持っているものだ。だがな、その生は、いずれ避けられる死を持つものだからこそ、最低限、楽しくなくてはならん。そのように生きられたなかったそなたの物語には同情する。だが笑え!実によき体の女よ!その極上の肉体があまりにももったいない!」

「フェルグス!!!」


立香がさすがに何を言っているんだとたしなめると、フェルグスも「あ、いや違う、すまん。今のは忘れてくれ」と訂正した。


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