伝承地底世界アガルタII−31
残されたカルデアは、最後にシェヘラザードに視線を戻す。シェヘラザードも、もう余力はない。
「…あなたたちの、せいです。死の恐怖は生の意味で打ち消せる、などと言うから。決して、そんなことは信じられないけれど…死に際の意義について、少し考えてしまったのです。つい、考えて、しまったのです。愛する者のために死ぬのと、自分を材料とするだけの者のために死ぬのと、どちらがマシか考えて、後者を避けたという、ただそれだけの…」
「…はっは。そうかそうか。それならそれで、まぁ、よかろう」
そして、シェヘラザードも、大地を割ったフェルグスも、消失の金色に光に包まれる。
「なあ、シェヘラザードよ。生に意味を残そうという考えがお前の中に少しでも刻めたのなら、俺の言葉も無駄ではなかったというものだ。それがただこの一瞬のことだけだとしても。そしてできれば、次があらばこのアガルタの出来事を読み返すがいい。お前自身の物語として。最後に、不死を蔑んだ女としてな。ずっと死にたくないと死にながら生きるより、建設的なことだと思うぞ」
「…私には…そんなこと、分かりません、何も、分かりません…」
「そうか。だがフェルグス・マック・ロイという優れた教導者がいる。次に生きたときは、まず俺と出会うことだ。そして迷いなく抱かれてみるがよかろう」
立香は唯斗を見て、「今のはさすがにアウトだよね」と小声で言ってきた。
「アウトに決まってんだろ」と返すと、シェヘラザードは意外にも曖昧なことを言った。
「はあ…不思議な人ですね」
「お、乗り気になったか!?」
「いいえ。心からお断りします。むしろあなたのことは苦手です。今の姿ならまだしも、大人のあなたは死んでしまいそうなので」
「むう…それは確かに否定できんな。もうだめ死んじゃう、とよく女に言われることに定評のあるこの俺である」
「マジで本当にアウトだよね!?」と立香は口元を引き攣らせ、唯斗はもはやため息をつくだけだった。しかしシェヘラザードは苦笑する。
「ふふ。
あなたの怖さのことを考えていたら、準備する暇もなく、時がきて…ああ。つまりは、そういう…ふふ……」
シェヘラザードはついに消失して粒子に包まれた。フェルグスはそれを見送ってから、最後にこちらに向き直った。
「さて。僕もここまでのようです。どこまでの誤配役で、端役としての役割も満足にこなせなかった僕ですが。あなたたちと地下世界を旅するのは、楽しかった。ああ、満足だ。縁があったら、また。今度は気兼ねなく、勇士としての
俺と、酒でも酌み交わそう」
フェルグスも、それを最後に消失した。あとには、この世界に飛んできた者たちだけが残される。
地面のぐらつきは、いよいよ大きなものとなり始めた。
『さて君たち、フェルグスの螺旋剣による物理的地形破壊によって、ラピュタの推進力は完全に消え去り、大都市に直撃することはなくなった。しかし…それは特異点反応の消失、ラピュタの完全破壊と君たちの安全性の加速度的な低下と引き換えというわけさ』
『ラピュタから剥離した瓦礫は、チベット高原、人の居住のない地域に落下すると弾道計算結果が出ています』
フェルグスのおかげでラピュタの都市への落下という最悪の事態は免れたが、急速にこの大地は地表へと落下を始めていた。
カルデアから来た者たちレイシフトで脱出できるが、残された男たちはそうはいかない。
「マシュ、男の人たちはどうにかならない!?」
『様々なシミュレーションを走らせていますが、いかんせん時間が…!』
「ギルガメッシュ、なんか宝物庫に使えるのないのか!?」
「ええい我の宝物庫は四次元ポケットではないのだぞ!!」
そうは言いつつギルガメッシュも思案顔だった。何か策はないか、と全員が考えている、そのとき、頭上から高らかな声が落ちてきた。
「何かお困りのようね!これもマハトマの導きかしら!」
すべての視線が頭上に向かう。崩れゆくラピュタに聳える黄金郷のピラミッドの瓦礫の上には、空飛ぶ円盤が浮かんでいた。
「…いやオカルトの超常決戦かよ……」
何も驚くまいと思っていたが、空中に浮かぶUFOはさすがに異質がすぎる。ギルガメッシュも微妙な顔をしていた。
どうやらエレナは、コロンブスに襲われたあと地中で防御結界を張って休んでいたらしく、こうしてラピュタが崩落を始めたことで、この都市を支えていた核である聖杯に行き当たり、力を増した状態で現れたということだ。
「エレナ!お願いがあるんだけど!空飛ぶ円盤なら100人乗っても大丈夫だよね!?」
「まぁ、物置のように上に乗せるくらいなら…祭りに一人だけ乗り遅れたようで釈然としないけれど、そんな目で頼まれたこう言うしかないわね」
物置は上に乗るものではないが、エレナはどや顔でこちらを見下ろす。
「よくってよ!マハトマの素晴らしさ、特別にあなたたちにも直に感じさせてあげる!」