ぐだぐだファイナル本能寺−2
立香の帝都レイシフト帰還後の会議を終えた唯斗は、席を立つ立香のところへ向かう。
「あのさ、立香」
「うん?」
「その、坂本龍馬に会ってみたいんだけど……」
「あ、そうだよね、唯斗が気にならないわけないよね。ちょうどさっき部屋を案内したところだったから、まだいるかも。一緒に行く?」
「頼む」
一人で会いに行くなどハードルが高すぎるということを立香は理解しており、一緒についてきてくれることになった。さらっとそういう気遣いができるところは立香の魅力の一つだ。
会議室を出て、二人で居住区画までやってくると、新たに宛がったという部屋の前に立つ。
立香は躊躇なくインターフォンを鳴らす。
「龍馬さーん、いるー?」
レイシフト先でかなり仲良くなったようで、気軽に呼びかける立香。
すぐに扉が開き、白い詰め襟の服を着た男が姿を現した。
「はいはい…って君は……」
「こっちはカルデアのもう一人のマスターだよ。日本とフランスのクオーター」
「雨宮唯斗だ、よ、よろしく、お願いします…」
「なんで敬語?」
つい敬語になってしまった唯斗に、立香は首をかしげる。龍馬はニコリと微笑むと手を差し出してくる。
「僕は坂本龍馬、よろしくね、唯斗君」
「っ、よろしく頼む……り、立香、名前、名前呼んでもらえた!」
恐る恐る握手に応じた唯斗は、ついに立香に隠しきれないテンションでこの喜びを伝えてしまった。立香は一瞬だけ呆気にとられてから、柔らかく微笑む。
「唯斗は可愛いなぁ〜。龍馬さん、見ての通り、唯斗はめちゃくちゃ歴史大好き人間だから、過去イチでテンション上がってるっぽい」
「そうみたいだね。いやぁ、ちょっと照れるな、後世の子にこうも喜ばれてしまうと。特異点で聞いていた唯斗君のイメージとはギャップがあるけど」
「龍馬の魅力が分かるなら悪いヤツじゃないな」
すると、龍馬の背後からぬっと女性が姿を現した。髪の長い女性は、見るからにただの人間ではない。
「あぁお竜さん。立香君と同じここのマスターだって。ほら、彼が帝都で話していただろう?冷静沈着、頭脳明晰、クールだけど時にあざといイケメン君」
「………立香、お前」
「いや、俺そこまで言って……」
とんでもない人相評価を口にした龍馬に、唯斗は立香をジト目で見るが、立香はこの期に及んで「言ったかな〜?」ととぼけている。
とりあえずそこは置いておいて、唯斗は龍馬の背後に浮かぶ女性を見上げる。
「…楢崎龍って竜神だったのか……?」
「あはは、まぁ、後世の子ならそう思っちゃうよね」
「お竜さんはそのお龍さんじゃないぞ。でも竜神という響きはいいな」
龍馬曰く、お竜さんはかつて助けた竜であり、その恩から龍馬の手助けをしていたという。近江屋事件で龍馬が暗殺されたあとは海に戻り、こうして英霊となってから共に召喚される宝具そのものとなったのだそうだ。
なお、史実の妻である楢崎龍は別人であり、この女性もまた、龍馬暗殺後に不遇の人生を送ることになる。
「なるほど、理解した。それでその、無理にとは言わないんだけどさ、その…」
「うん?」
英霊としての出で立ちは理解した。あとは、気になっていたことを一つだけ、言いよどみつつお願いしてみる。
「…例のヤツ、聞いてみたいな、なんて」
「あ、俺も聞きたい!日本の夜明けぜよってやつ!!」
「えっ」
立香も目をキラキラとさせて期待したように龍馬を見上げる。龍馬は口元を引き攣らせて、とんでもなく迷っているような表情になった。彼本来の優しさと恥ずかしさとがせめぎ合っているのだろう。
「サービスしてやれ龍馬。未来の日の本の子たちだろう。骨はお竜さんが拾ってやる」
「いやスベる一発ギャグみたいに言わないでね…はぁ、分かったよ。マスターたちのお願いとあらば」
そう言うと、龍馬は白いハットを目深に被り、凜々しい顔つきになる。意外と形から入ってくれる。
「…日本の夜明けぜよ」
「「おおおお!!!」」
「良いリアクションだ、良かったな龍馬」
きっちりこなしてくれた龍馬に、ついテンションが上がる日本人マスター二人。近代という時代ではもちろん、日本史全体を通して最大の偉人である龍馬の名言だ、本当にこれを言ったかどうかは大変に疑問だが、本人がやってくれたというのはそれだけ嬉しいことだった。
龍馬はそんな二人に呆気にとられたあと、ふっと破顔する。
「まったく、人理を救ったマスター、ってのは、なるほどこういうことね。いや、いい場所に召喚されたね、お竜さん」
「ああ、今回は楽しめそうだ」
「それ悪役の台詞だよ…」
史実のイメージとまったく同じ、というわけではないが、なぜか龍馬はしっくりくる。そんな龍馬と会えたという奇跡自体、このカルデアの旅の良さの一つだろう。