ぐだぐだファイナル本能寺−4
そうして待つこと5分、すぐにディルムッドが戻ってきた。
「どうだった?」
「残念ながら、集落はおろか人工物は何一つ見受けられませんでした。ただ、南へ行けば行くほど山が深くなっていくようでした」
「標高は?」
「北の方がいくらか下がっていくようです」
「なら北に向かおう。平地に出た方がいい」
人の気配がないなら、少しでもその可能性がある方へ動く。それだけのことだ。
唯斗はすぐに太陽の向きから北の方角を判断し、そちらへと街道を進み始める。ディルムッドも隣を歩いた。
「さすが我が主、冷静なご判断です」
「こんだけ探索してりゃな。それに、ディルムッドが一緒ってのも大きい。ここに飛ばされる直前に俺のそばに来てくれたから同じ場所に着地したんだろ。助かった」
「それこそ当然のことです。あなたがお一人でこのような場所に来ていたかもしれないと思うと、それだけでこのディルムッド、心臓が止まってしまいそうです」
そんな大げさな、と言おうとしたが、ディルムッドの場合本当にあり得る気がして、曖昧に笑うに留めた。
しばらくとりとめもないことを話しながら街道を歩いていた二人だったが、日が傾き、夕方になっても、道を行く人間も集落もなく、田畑などもなかった。完全に峠道である。
夜になっても動けるような場所ではないため、野宿しかなさそうだ。
「マスター、この辺りで今晩は野営としましょう。少し街道から逸れますが、沢があるようです」
「分かった。印つけながら行こう」
唯斗は街道から森に入ると、ところどころの木々に魔力を籠めてマーキングをしていく。半日は保つため、朝になってから道に出られない、なんてことにはならない。
森の中をディルムッドの先導で進み、沢へと到着する。小さなものだが、河原に転がる岩を超えて水の流れる場所まで来ると、その透明度に驚く。
「こんだけ人の気配がないから当然だけど、やっぱ綺麗な川だな」
「ええ。あ、マスター、魚がいます」
「マジ?」
貴重な食材だ。唯斗はすぐに目をこらす。
ディルムッドが示した方を見れば、鮎が泳いでいるのが見えた。唯斗は急いで左手の術式を起動する。
「ヴィアン」
召喚術が発動すると、すぐに唯斗の足下に鮎が転移してきた。唯斗式の釣りである。一匹いれば十分であるため、あとは携帯用の小さな水筒に水を汲んでおく。
魚はすでにディルムッドが拾い上げており、ビチビチと暴れる魚を石で頭を殴りつけ、動きを止めていた。
「さすがに慣れてるな」
「マスターこそ。鮮やかな手際です」
「アガルタでアーラシュにいろいろ教わったんだ。火もおこせる。まぁ、ギルガメッシュが教われって指示したんだけどな」
「…かの王らしい、あなたの守り方ですね」
「本当にな」
ディルムッドもすぐにギルガメッシュの意図を理解したようで、こうして一人でサバイバルをこなす唯斗に、その必要性を実感しているようだった。
そうやって自分で火をおこして、焼いた鮎のおいしさに目覚めつつ、そろそろこの自然環境が日本や極東アジアではないかと気づく。特に鮎は、大半が日本列島に生息しており、中国や朝鮮半島、台湾、ベトナム北部でも見かけることはあるが、主な川魚ではない。
食事を終える頃にはすっかり夜になっており、森の中は急に肌寒くなる。礼装があるため風邪を引くようなものではないが、暗闇もあって寒々しい。
たき火によってむしろ闇の暗さが際立って、闇の中から枝の揺れる音や沢の水音だけが聞こえてくるのも不気味だった。
昔の人々が闇を恐れるのも納得だ、と改めて思いつつ、唯斗は木の幹に凭れて息をつく。
そばに立って周囲の獣を警戒していたディルムッドは、唯斗に声をかけてくる。
「お休みになられますか?」
「うーん…や、寝られれば寝る」
「あぁ…寝入りがよくないのでしたね」
ディルムッドは小さく笑うと、唯斗の隣の地面に腰を下ろした。
「邪魔にならないよう霊体化しながら警戒に当たろうかと思いましたが…あなたにはこちらの方がよろしいですね」
そう言って、ディルムッドは唯斗の肩を抱き寄せた。左隣のディルムッドに凭れさせるように肩を抱かれ、唯斗は頭をノースリーブの肩に預ける。
その温もりに安堵した唯斗は、より深く、ディルムッドの肩に顔を埋めるように体を寄せた。
「…ありがとな、ディルムッド」
「ふふ、正直に言えば役得というものです。安心してお休みください、私が必ず、あなたをお守りします」
第三特異点から今に至るまで、長い付き合いだ。その言葉に嘘がないことは十分すぎるほどよく知っている。
すぐに睡魔がやってきて、我ながら単純だと自嘲しつつ、唯斗は目を閉じた。