ぐだぐだファイナル本能寺−5
翌朝、再び街道に出た二人は引き続き北の方角へと足を進めた。そろそろ誰かとすれ違ってもいいような気がするのだが、依然として人の気配はなく、なんとなく日本や韓国に近しい環境だと感じるくらいしか場所の特定すらできなかった。
立香があの茶室にいたサーヴァントたちの誰かと一緒にいられればいいのだが、マシュはまだ戦闘ができないため、信長や沖田など戦える者とここに来ていることを祈るばかりである。
ただ、そのあたりの悪運の強さは立香を信用している。
そうやってしばらく歩いていたときだった。
「…む、マスター、何者かが高速で後方から接近してきます」
「え、高速で?」
突然、ディルムッドがそう言って警戒態勢に入った。文明の気配がない峠道で高速移動する者など、いったい何者なのか。
それも、ディルムッドがすぐに警戒する姿勢に入っていることからも、友好的な者ではない可能性が高い動きをしているということだ。
「一度木々の間に入りましょう」
「分かった」
ディルムッドに肩を抱かれ、唯斗は道から一歩森の中に入る。木の陰に隠れていると、確かに、道の南からかすかに音が聞こえ始めた。
こちらに高速接近してくる足音は走っている人のものだが、一緒に金属がぶつかり合う音も響いてくる。甲冑だろうが、かなり重そうな音だ。
そんなものを抱えて走っているというのか、と思って息を潜めていると、その足音は、二人から数メートルのところで急ブレーキをかけて止まった。
「そこでこそこそしてンのは誰だァ!うぜぇからぶっ殺してやんよ!!」
聞こえてきた柄の悪い男の声に、まったく友好的ではないものの、コミュニケーションができるというだけで貴重に感じた唯斗は、ディルムッドを見上げた。
「…出よう、なんであれ、少しでも状況を知りたい」
「……承知しました。くれぐれも私の前に出ないよう」
ディルムッドと唯斗は、木陰から道に出る。ディルムッドの後ろを歩きながら、唯斗は男の姿を視界に入れた。
白いずんぐりとした甲冑はまるでロボットのようで奇怪な見た目だったが、それよりも重要なことがあった。
「魔術がかけられてる…科学技術じゃないな」
「ア?てめぇサーヴァントか?じゃあその後ろの人間はマスターってやつかァ!殺し甲斐があんじゃねェか!!」
「マスター、少なくとも友好的な意思疎通は困難でしょう」
ディルムッドは2本の槍を構えて男に相対する。男はサーヴァントとマスターという言葉を使ったことからもサーヴァントだと分かったが、いかんせん鎧の魔術が強すぎて中の様子が窺えない。
男も同様に巨大な槍を構えたが、それはやはり日本の戦国時代に見られる意匠に見えた。予想通り、ここは時代を遡った日本である可能性が高い。
「我が名はディルムッド・オディナ!フィオナ騎士団が一番槍にして、我が主唯一の槍兵である!貴殿の名を聞こう!!」
「ハッ、南蛮系のサーヴァントかよ!いいぜぇ、名乗ってやる。俺ァ鬼武蔵、森長可!冥土の土産に覚えておきなァ!!」
「なっ、森長可…!?」
長可は名乗るなりすぐにこちらに斬り掛かってきた。巨大な槍を振り回し、ディルムッドに迫る。大柄な体躯と巨大な甲冑にも関わらず、俊敏にディルムッドの正面に躍り出ると、一瞬で間合いを詰めた。
変則的な動きに息を飲んだディルムッドだったが、そこは歴戦の騎士、すぐに紅の魔槍ゲイ・ジャルグで弾いた。
16世紀後半、戦国時代の大名であり織田信長の忠臣の一人だった美濃の武将、森長可は、生前から完全にバーサーカーだったタイプの人間だ。
当然、クラスもバーサーカーだろう。会話は成立しそうだが、話し合いでなんとかなる相手でもないはず。
ただ、あの甲冑に刻印された術式は、どうにも霊基に干渉しているように見えた。