ぐだぐだファイナル本能寺−6
ディルムッドが長可と一騎打ちの打ち合いをしている間に、唯斗はあの甲冑の無効化を図ることにした。
長可がディルムッドに気を取られている隙に、唯斗は迷彩術式によって姿を隠して、戦う二人の周りをぐるりと回る。ディルムッドはパスによって唯斗の動きを把握しているはずだ。
(周囲のマナを吸い上げて霊基に送ってるのか…いや、しかも霊基に干渉して動きを制限してる…一種の強制術式か…なんつー高度な……)
これは唯斗だけでは解除しきれないと判断し、ディルムッドに念話を送ることにする。
(ディルムッド、今から言うパーツをゲイ・ボウで狙ってくれ)
(承知しました)
唯斗は魔力の流れを見ながら、それを寸断して唯斗でも解除できるようディルムッドの黄色い槍に託すため、部位を指定する。
(両肩の正面と背面に見えてるコードと、腰から両脇に伸びてるコード、あとはヘルメットも吹っ飛ばしてくれ)
(はっ!)
ディルムッドが応じたのを確認してから、唯斗はその動きをフォローするべく、長可の背後の地面に召喚術式を起動した。
「ヴァズィ!」
瞬時に地面には大きな穴が開き、意図を理解したディルムッドは一際強く槍を突き出す。長可はそれを後ずさって避けようとしたが、そこに地面はない。
「うおッ!?」
バランスを崩したところで、ディルムッドは右脇の正面から背面にかけてのコードと、腰から伸びるものをゲイ・ボウで切り裂いた。
しかし長可も、落下しながら体を捻り、槍をディルムッドに向けて薙ぎ払う。すんでで避けたディルムッドが数メートル跳躍すると、唯斗はその先に結界を展開した。
ディルムッドは慣れたようにその結界を足場にして、再び長可に向けて弾丸のように飛び出す。
長可が器用にそれを地面の穴へと落下しながら空中で避けると、落ちた先で再び唯斗は結界を発生させ、同じ要領でディルムッドはそこでターンして下から槍を突き上げた。
それによって左側のコードもすべて断線し、ディルムッドはいったん地上に戻った。
長可も、穴の底から跳躍して地面に降り立つ。
「くっそしゃらくせぇ!!」
苛立ったように叫ぶ長可だが、ディルムッドはあくまで冷静に、残るヘルメットに視線を向ける。
狙いを理解した長可は、先に動いた。
目にも止まらぬ速さで槍を振りかざし、ディルムッドは一瞬対応が遅れた。あの隙の付き方は、まさにバーサーカーらしい本能のそれだ。
咄嗟に、ディルムッドは2本の槍をクロスさせて受け止める。
二人はそれによって互いに動けなくなり、力が拮抗して槍が軋む音が響く。だが、ディルムッドの方が2本で力が分散することと、長可が単純にバーサーカーで膂力があるため、少しずつ押され始めていた。
しかし今はそれだけで十分だ。
唯斗は落ち着いて照準を合わせると、右手を左手で支えながら、人差し指を長可の頭に向ける。
そして、最大火力のガンドを放った。衝撃で後ろによろめくが、なんとか照準はぶれず、長可の頭に直撃してヘルメットを吹き飛ばす。
その中から、燃えるような赤い髪と精悍な顔が姿を現した。
「ッ、てめぇコソコソ何してやがる!!」
「悪いな、森長可。まずはその邪魔な鎧を無効化させてもらう」
「あ″!?!?」
「
真の名を告げよ!」
長可に向けて左手をかざし、1節の詠唱を行うと、青白い火花が甲冑から散った。白い甲冑は煙を吐いて魔力の流れを完全に止め、沈黙する。
甲冑が無力化されたことには長可も気づいたようで、目をパチパチとさせたあと、おもむろにそれを脱ぎ捨てる。
乱雑に白い甲冑を外せば、本来の姿であろう武者姿となった。
「うははは、なんだお前、ハナっからこれが目的だったのかよ!まどろっこしいことしやがって!!」
「日本史が誇るリアルバーサーカー、天下の鬼武蔵が機械ごときの言いなりなんて、後世の人間としてむかついたからな」
「…、それが理由か?」
「令呪籠めて宝具を開放すれば、その甲冑があってもディルムッドなら倒せる。あんたが弱いとかじゃなく、マスターの有無ってことだ。でも、俺はそんな魔術装工、気に入らない。
日本の武将ナメてんのかってな」
こんなことをしなくても、神代の槍兵であるディルムッドなら倒せたはずだ。わざわざこんなことをしたのは、もちろん状況の理解のためということもあったが、あの森長可にこんな動きを強制させる甲冑をつけるなど腹が立ったからだ。
「ハッ、お前、俺が誰だか分かっててンなことしたのかよ!変なヤツだなァ!!ま、無理矢理動かされてた鎧取っ払ってくれたのはありがてェけどな」
唯斗はディルムッドの隣に立つと、正面で甲冑を蹴り飛ばす長可を見上げる。近くで見るとかなりでかく、恐らく190を超えている。伝承では小柄だとあったが、史実は異なったようだ。
森長可、美濃の近世大名であり若くして織田信長の忠臣となった人物である彼は、その鬼のような武勲によって信長から鬼武蔵と名付けられた。これは、その勇猛さを武蔵坊弁慶に喩えた信長の名付けだとされている。
リアルバーサーカーな功績を挙げた兵である一方で、美濃の木曽川流域の商業を地域経済に組み込んで体系化・制度化し、専売による定年の利益を確保するというような統治手法も確立させた武将でもある。なお、その槍である人間無骨は現代まで伝わっている。
「長可。もしまだ暴れ足りないなら、ちょっと俺に付き合ってくれないか」
「マスター!?バーサーカーをサーヴァントとするのですか!?」
「これで国を治めたこともある大名だし、なんなら茶や書にも秀でたヤツだ。何より、あの人間無骨で敵をまとめて薙ぎ払うとこ、見てみたくね?」
「…、マスターのバーサーカー脳がここで発揮されてしまうとは…!」
ディルムッドは渋っていたが、呆気に取られていた長可は盛大に噴出した。
「うははははは!!!気に入ったぜあんた!いいぜ、俺もあんたの下で暴れてみてェ!!今日からあんたが殿様だ!殿様の敵は俺の敵、俺の敵も殿様の敵、大殿でも誰でもぶっ殺してやるからよ!!」
こうして、ついにこの特異点、かも分からない謎の空間における間ではあるが、唯斗にとって初のバーサーカーのサーヴァントとの契約が成立した。同時に、日本の英霊との契約もエミヤを別とすれば初となる。
そして長可から、この日本の状況について、とんでもない事態を聞かされることになったのだった。