ぐだぐだファイナル本能寺−7
現在の新潟県南部、関川の河口部に中心部が広がる上越市の山に聳える春日山城。そこが長可の目的地であるとのことで、とりあえずヒントとなる情報が得られることに期待して、そこを目指すことにした。
その道中で長可は、その大雑把な言葉ながら端的な口調によって、今の状況を語ってくれた。がさつで口も悪いが、ところどころに頭の良さが出ているのは大名故だろうか。
まず時代は天正12年、1584年であり、場所はやはり日本の戦国時代である。ここは信濃国の北東部との国境に近い越後南部の山間で、どうやら二人は現在の長野県飯山市から新潟県妙高市に入るあたりの山道にレイシフトしてきたらしい。
「よし、時代と場所は分かった。で、どんな状況なんだ?さっきの甲冑、どう見てもこの時代にはオーパーツだろ」
「俺ですら意味分かんねーって思うけどよ、まず大殿が生き返ってよ、そんで殿様がいっぱい現れて、その中の一人…カイザーっつったか?が、帝都ってのを築いて、俺はそこであのクソうぜェ鎧をつけられて春日山城を落としに行かされてた」
「?…、……?…??」
「うははは!!まァそうなるよな!!」
脳が理解するのを拒否している。これが、立香の普段経験していたヤツということか。
「ま、俺もよく理解してるわけじゃねェし、大殿が甦ってたくさんいるっつーことしか知らねぇけどな」
長可の話すことを読解すれば、大殿、つまりは織田信長が本能寺の変で討ち死にしてから生き返って、さらに各地に織田信長が現れて、織田信長だけで群雄割拠しているということだ。
ますます意味が分からない、と思いつつ、唯斗は理解するべきことを絞ることにした。
「…まぁ、とりあえずいい。最優先は立香…はぐれた仲間との合流だ。とりあえず今はヒントになるかもっていうんで、このまま春日山城に向かうけど、春日山城って越後の軍神・長尾景虎が築いた城だよな。もうこの頃には亡くなってるはずだけど、ここも信長がいんのか?」
「おう。越後は単独で大殿の一人が牛耳ってるらしいぜ。んで、信濃、飛騨、甲斐の三国、上野、武蔵、相模の三国、駿河、伊豆、遠江の三国がそれぞれ別の大殿たちが支配してる。あー、越中・加賀・越前もか。尾張と美濃は「本物」ってのがいるらしい。そんで、都方面は生き返ったっつー大殿だな」
「なるほど、じゃあ帝都ってのは武蔵を中心とする勢力か。帝都の信長と越後の信長はすでに直接やり合う仲だと…まぁとりあえずはここまででいいか。攻撃されたら攻撃し返せばいい。敵は敵対したら分かるしな」
「うはは!いいぜ殿様、その考え方!!マスターってやつもなかなかいいモンじゃねェか!」
右隣を歩く長可は豪快に笑って軽く唯斗の背中を叩いてきた。ごく軽いものだったが、粗雑なバーサーカーである長可のそれは十分強く、唯斗はつい咳き込む。
「うぐっ、げほッ、げほっ、」
「っ、マスター!大丈夫ですか!?」
左側を歩くディルムッドは慌てて唯斗の背を摩る。長可はそれを見て首をかしげた。
「わり、加減したつもりだったンだが足りなかったか?」
「…っ、先ほどから貴様、マスターに対して無礼が過ぎるぞ。戦闘中のことは不問にするが、『なかなかいい』だと?我が主は最高のマスターだろう」
「あ?テメェあれだな、イイ子ちゃんヅラしてるタイプの英霊なんだなァ?うっぜ!俺には俺の忠義ってのがあんだよ、黙ってやがれ」
「それは貴様が押しつけているだけだろう、マスターが無礼を許してくださっているのだと理解したらどうだ」
「マスターが許してンなら問題ねェだろうが、テメェに関係ねェだろ」
唐突に口火を切られた口げんかに、唯斗は思わず唖然としてしまう。ディルムッドがここまで他のサーヴァントに苦言を呈することもない。
しかもバーサーカーに口げんかで押されている。やはり脳筋ランサーには、バーサーカーといえど美濃を統一し支配した大名には口で勝てないということか。
「ディルムッド、別に俺は俺に対する礼儀とか気にしない。長可がしたいようにすればいい。武士としての忠節ってのもあるし」
「マスター…」
「長可も、自分を主張することと相手を侮辱することは違う。自分の正しさは正論か暴力で示せ。でも戦うときは許可制だからな、俺に一声かけろ」
「…ハッ、やっぱいいマスターってヤツだな、あんた。じゃあ早速いいか?いいよな!?こいつ殺しても!俺だけで十分だろ殿様よォ!」
しゅん、としたディルムッドだったが、長可の宣戦布告にきっちり煽られて、額に青筋を浮かべた。これは相性が最悪な組み合わせだったようだ。アーラシュやアキレウスのように流せる相手か、エミヤのような飄々としたサーヴァントの方が良いのかもしれない。
「たわけたことを。貴様に主は守れまい、倒す力のみで守る力を持たない者にマスターを預けるわけにはいかない…!」
「敵なんざ全員殺せば守れるだろうがよ、殿様以外全員殺せば同じじゃねェか!」
「……ヴィアン」
とはいえ、うるさいものはうるさい、唯斗は左手の術式を起動して、近くの川から水を転移させ、二人の頭上からそれぞれぶちまけた。結界で唯斗に水が跳ねても弾かれる。
突然のことに、二人ともポカンとして水に濡れていた。水もしたたるとはまさに二人にぴったりな言葉だった。
「俺の頭上でクソきたねぇ言葉の応酬してんじゃねぇ、ぶち殺がすぞMother Fucker」
唯斗より15センチ背が高いディルムッドと、20センチ以上差がある長可、二人が唯斗の頭上でやり合うのは腹が立った。内容はどうでもいい。びしょ濡れの二人を交互に睨み付けてやれば、二人とも肩を揺らした。
ディルムッドも長可も、「どう考えても今の発言の方が汚い」と思っている顔をしていて、それは非常によく似ている。当然、そんなことを言える空気ではないことくらいは理解しているのか、二人は歩き出した唯斗に黙ってついてきた。
「殿様って怒るとコエーのな」
「最近怒ると怖いのだ、あまり怒らせないようにするのが得策だぞ」
「肝に銘じとくわ」
背後で何やらそんなことを話しているが、小声のつもりであろうものの筒抜けである。怒られた男子のようなやりとりに、現役男子高校生のはずの唯斗が呆れるとは。
ため息をつくと、大げさに背後の二人がびくりとして、それはそれで少しおかしくなった唯斗だった。