ぐだぐだファイナル本能寺−8
そうしてやってきた春日山城周辺は、さすがに城下町がある程度栄えており、ようやく人の住む街にたどり着けたことになる。ここまでやたら長かった。
だが、いざ春日山城に着いたところでふと思い至る。
「…これってどうやって入るんだ?アポなしでも城って入れるモンか?」
「うはは、んなわけねェだろ!まァそりゃ近しい関係であればそういうこともあるが、前触れなしってのはよっぽどのことだなァ」
「…つかさ、長可が春日山城に来るの、これが二回目だよな…?」
「そうだな」
「……しかも前回は2年前の越後攻めだよな?」
「おう、その通りだな」
天正10年5月、上杉謙信の養子である上杉景勝が、柴田勝家に侵攻されている越中を助けに行くのを阻害するべく、本拠地である春日山城へと侵攻したのが森長可だ。
その後6月2日に本能寺の変が発生したことで長可は撤退しているが、その足で東美濃の反乱をすべて収めて統一している。
そして天正12年4月、信長の次の織田家当主の座を巡って、秀吉と家康とに分かれて起こった小牧・長久手の戦いにおいて、秀吉側についた長可は長久手合戦で狙撃によって死亡する。
そう、つまり春日山城にとって長可もまた、生き返った武将が再び攻めてきたようなものなのだ。
「お、おいあれを見ろ!森長可様だ!」
「なんと!長可様まで蘇ったというのか!ええい、討て!次は落城させられるぞ!」
「おい長可お前死にたてホヤホヤかよ!」
「死にたてホヤホヤって!おもしれーな殿様はよォ!」
「笑っている場合か森殿!マスターをお守りせねば!」
あっという間に門から出てきた兵士たちに、ディルムッドは慌てて前に出て二つの槍を構える。長可も巨大な人間無骨を構えて前に進み出る。
こうなってしまえば平和的に、というわけにはいかない。ただ、信長の一人がいるということは、その忠臣である長可であれば話が通じる可能性があるということでもあった。
「くそ、もしかしたら長可なら話をしてもらえる可能性がある、死者は出すなよ」
「別によくねぇか?」
「マスターが殺すなと仰せだ、そう従え」
「お前に聞いてねェんだよ」
「喧嘩すんな!!」
兵士たちを前ににらみ合った二人に思わずため息をつく。
すると、城内から焦ったような声が聞こえてきた。
「ストップストップ!その人俺の仲間だから!!」
「唯斗さん!ご無事でしたか!」
なんと、出てきたのは立香とマシュだった。ということは、と思っていると、その後ろから背の小さい女性の姿が出てくる。
「なんと!唯斗と共にいるのは勝蔵か!」
「あ?大殿じゃねェか!」
とてつもなくラッキーなことに、まさしくこの越後の信長こそカルデアの織田信長であり、すでに立香とマシュが合流できていたらしい。
死傷者が出る前に、唯斗たちは客人として城内に入れることになった。それはそれで良いのだが、まさかここまでディルムッドと長可の反りが合わないとは、と少し不安にもなる。
そうして天守閣の上層部へと上がっていくかと思いきや、実際には中層あたりで腰を落ち着けることになり、畳の上に全員円を描くように座って、改めて状況の確認や紹介を行うことになった。
まずカルデア側は、立香、マシュ、信長と唯斗、ディルムッドがおり、唯斗の契約サーヴァントとして長可がいる。あのとき茶室にいた他のサーヴァントたちの行方は分かっていない。
そして立香にはもう一人サーヴァントがいた。それが長尾景虎、別名は上杉謙信である。景虎の養子が春日山城の城主であるときに、長可はここに攻め込んでいる。
それにしても、まさか信長だけでなく景虎まで女性だったとは、と少しだけ驚いたものの、もはやこのパターンには慣れきってしまっている。
一通り状況の確認が済んだところで、景虎は「さて」と話を切り替える。
「そろそろ次の話をしましょう。とりあえず越後の大名は今日から立香に決まりました。マシュが最も立香に近いようですから、家老はマシュに頼むとしましょう。唯斗は…」
「この場合、家老は私と唯斗さんでどうでしょう?普段の特異点探索では、むしろ唯斗さんこそ家老の役割を果たしてくださっていますので」
「よろしい、ではお二人で家老としましょう」
この時代、大名の次に偉いのが老職と呼ばれるもので、老中などと呼ばれることもある。時代によって呼び方が異なるが、今は家老と呼ぶようだ。家老は複数人で構成され、藩の政治経済を実質的に合議制で取り決める。
「私と信長、長可、ディルムッドは足軽から始めるとしましょう。手柄を立てたものが上に立つ、戦国の習いです」
「え、ちょ、待て、越後の軍神と戦国の象徴と鬼武蔵を差し置いて…?」
「分かりやすくていいじゃねーか殿様!で、どの大殿からぶっ殺すんだ?」
「まさか生まれながらの戦国大名であるわしが足軽に身をやつすなど…まぁ良いか」
三人とも大名だというのに、まさか立香が大名となり、唯斗とマシュが家老となるとは。そしてそれに異論がない。ディルムッドは日本の仕組みをよく分かっていないようだが、いわば一兵卒であるため、ディルムッドも特に問題はないだろう。