ぐだぐだファイナル本能寺−10
「まさか勝蔵がわし以外の誰かの言うことを聞くとはな。初めて見たぞ。唯斗お主、ドッグブリーダーか何かじゃったか?」
「いやそんな…まぁ、正直、日本史の英霊もサーヴァントにしてる立香のことがちょっと羨ましかったのは事実だから、こうやって長可と契約できたの、ぶっちゃけ嬉しいっていうか…俺も憧れの戦国武将と戦えるのか、って思ったら、ちょっとテンション上がるっていうか…」
客観的に指摘されると、唯斗も思えば少しテンションが上がっているような気がした。間違いなく、初めて日本史の英霊と契約したからだ。後世に伝わる姿と違えど、信長や沖田、土方、茶々などのほか、玉藻の前、頼光や金時、さらにはSE.RA.PHで縁を結んで最近召喚した鈴鹿御前など、立香の元には日本英霊も多く集まっているのを見て、本当は少し羨んでいた。
「私は唯斗とはこの場での会話だけですが、日本だけでなく世界の歴史にも精通しているものとお見受けしています。そんなあなたなら、森長可の悪名もご存じでは?」
景虎は、特に悪口などではなく、単純な疑問で聞いてきた。景虎存命中は直接戦っていないはずだが、確かに喧嘩っ早く、信長の庇護がなければ早々に立場をなくしていたはずだ。
「まぁ、鬼武蔵って異名も、確か上洛した信長に会いに行く途中に関所で兵士を逆上して斬り殺したことを、同じように橋の上で人を殺めた武蔵坊弁慶に由来してのことなんだよな。そういうのは確かに良いモンじゃないんだろ。でも、正直そこら辺はどうでもいいっていうか…なんつか、それも含めて格好いいから良くねぇかって思う」
「あー分かる、ぶっちゃけ格好良ければなんでもいいよね」
思考回路がわりと似ている立香も分かると頷く。景虎は呆気にとられ、信長は豪快に笑った。
「ぶははは、これは痛快!良かったのぉ勝蔵!味方にも疎まれたお前じゃから、マスターなんて戴いて大丈夫かと心配しとったが…良いマスターに出会ったな」
信長のその言葉でようやく、ずっと黙っていた長可がもぞりと動いた。ずっと後ろから抱き締められている状態だったが、おもむろに体を離して距離を取り、胡座をかいて両手の拳を前に突く。そのまま、上体を下げて頭を下ろした。
「この森長可、改めてあなた様を主君と仰ぎ、命に代えてでもお守りすると誓い奉る。粗忽なる将兵なれど、この命、この槍、殿が命であれば戦場にて敵兵とともに没するが定めもまた喜びとする所存」
マスターである唯斗が現代人であるため、そのかしこまった言葉もまたやや現代的だったが、長可が武将として、唯斗に従うことを改めて誓ってくれたのだということは理解できた。ディルムッドも、こんなことができるのかと驚いている様子だ。
なんと言おうか一瞬迷ったか、ひとつだけ訂正しようと思った。
「ありがとう長可。でも、簡単に命を散らすのは許さない。白装束を着て出陣するような真似、絶対にさせない。俺のために死ぬんじゃなく、俺のために生きると誓ってくれ。いいな」
「ッ、この俺に、生きろってか」
びっくりしたように顔を上げた長可は、少し呆れたように笑った。
「主命、承った。ま、この調子でなんでも命令してくれや」
最後にひとつだけ固く応じてから、一気にニヤリとしてフランクな態度に戻った。良かった、ずっと武士のような感じで来られたら大河ドラマのようになってしまう、と変な危惧をしてしまった。
そして長可は、一度離れた距離を先ほどよりも深く詰めて、自身の胡座の上に唯斗を抱き上げて乗せると、そのまま抱き締めた。あまりに鮮やかに持ち上げられて抱き込まれたため、唯斗は呆然とする。信長と景虎はため息をつき、立香とマシュは微笑ましそうにしていた。
「…長可、」
「嫌だったか?離せと言われりゃ離すが」
「や、痛いからその胴丸消してくんね」
唯斗は振り返って長可の精悍な顔を見上げ、背中に当たる甲冑の一部、当世具足というこの時代の甲冑形式で言うところの仏胴を消してくれと頼んだ。長可は一瞬ポカンとしたあと、胴丸を消失させて思い切り唯斗を抱き締めた。
「うぐっ」
「かーァいいなー俺の殿様は!!閨来るか?」
ついにそんなことを言い出したところで、信長が空中から火縄銃を出現させて銃口を至近距離で長可の頭に向けた。即座に降参だと手を挙げた長可に、信長は何度目かのため息を吐いた。