ぐだぐだファイナル本能寺−12


「我に毘沙門天の加護ぞあり!進めえええ!!」


なんと、景虎は吉法師の戦略に気づくなり、味方の一陣を率いて山を駆け上がり、上から挟撃する形をとったのである。この機転の速さはさすが軍神といったところか。
吉法師の軍勢は潰走し、吉法師も信長たちに追い詰められる。景虎もこちらに駆け下りて合流し、ディルムッドと長可も一通り山間の者たちを討ち取って山を下りてきた。


「くそっ、ここまでか…!」


信長や沖田の猛攻に、ついに吉法師が膝を着く。雨で濡れた地面に泥水が跳ねた。
全員が合流し、吉法師も戦うことができなくなり、勝負あった、と思われた。


「ッ、まだです!」


景虎の鋭い警告に、唯斗は咄嗟に立香とマシュの前に立って結界を展開しようとした。その寸前に、目の前に男の姿が現れる。


「気づいたときには手遅れよ」

「李書文…!」


なんと、茶室で消えた老年の李書文である。さすがにこのアサシン相手に唯斗の結界展開は間に合わない。立香と唯斗、まとめて拳で貫かれかねない。
さすがに肝が冷えたが、その直後、目の前に壁のように鎧が出現した。


「ッ!!あー……いてェ…はらわたがひっくり返ったみたいじゃねぇか……」

「っ、長可!」

「森君!!」


二人を庇ったのは長可だった。咄嗟に割り込んで拳を受け止めてくれたらしい。その胴丸はひび割れて欠けており、口から血を流している。もろに腹に入ったのなら、内臓が潰れていてもおかしくはない。


「ほう。身を挺して主を守ったか。でかい図体の使い道を心得ておる」

「ジジイが俺の殿様に手を出すんじゃねぇ!!ぶち殺すぞ!!オラァ!!」


長可は槍で李書文を思い切り弾き飛ばし、一気に距離を取る。それを見て、吉法師はすぐに立ち上がって声を張り上げた。


「よし!ここまでだな!おい越後の俺!降参だ、皆の者も戦いをやめよ!」


どうやら吉法師は降伏するらしい。奇襲が失敗して、正面からやり合うには戦力が足りないことを見切ったらしい。


「こやつ、わしの割りには諦めがいいのう。ところで、なんていうかこのわし、わしより風雲児してない?」


信長も殲滅する意志はないようで、戦いはこれで終わるはずだった。しかし、いまだに長可と李書文が一騎打ちを続けている。


「死ねやああああ!!クソジジイ!!俺の殿様に手を出して生きて帰れると思うなよ!!」

「なら死ぬまでやるか?」

「ボケてんじゃねぇぞ!てめぇが死ぬまでに決まってんだろうが!!」


正直こうなることは目に見えていたため、唯斗はため息をついてから立香に声をかける。


「立香、李書文の方頼んだ」

「了解」


立香は話の通じる李書文の方を止めに行く。唯斗も走り、長可のところまで駆け寄った。


「長可!」

「あ!?って殿様かよ!ちょっと待ってろこいつ殺すから!!」

「その人もカルデアから来たサーヴァントなんだ。もう大将同士で決着はついた。これ以上の戦いは無用だ。それより手当するからこっち向け」


李書文も立香が止めに入ったため、すでに戦うモードではなくなっている。口は悪かったが、互いに楽しんでいたはず。特に長可はあとで楽しかったと気づくタイプだろう。
あとは長可を手当てして落ち着かせるだけだが、息の荒い長可はこちらを睨み付ける。


「殿様に手ェ出したんだから殺すしかねぇだろ。手当もいらねぇ」

「…長可、俺は出陣前になんて言った?」


黙って言うことを聞け、と少し声に魔力を乗せる。長可は途端に動きを止め、眼光を落ち着かせ、静かにこちらを見下ろした。


「…殿様のために生きろ」

「その通り。戦うときは戦う、休むときは休む。暴れたいときに暴れられないことほどむかつくこと、ないだろ」

「…ま、そうだな」


ようやく長可も落ち着いたため、唯斗はその腹に手を当てて治癒術式を展開する。身長差から、唯斗の鳩尾あたりに長可の腹筋が来るような位置だ。


「あ、あともうひとつ」

「ん?」

「ありがとな、守ってくれて。助かった。俺のために怒ってくれたのも嬉しかった」

「当然だろ。つかほんと可愛いのな、あんた」


思わず「殿様」呼びでなくなるほど、長可は無意識で言ったらしい。思わずその顔を見上げた唯斗と目線が合って初めて、長可は「やべ」と言って口元を覆った。


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