ぐだぐだファイナル本能寺−14
それから数日間で、大きな動きが立て続けにあった。
まず一つ、狂化された柴田勝家が攻め込んできたこと。柴田勝家は秀吉に討ち滅ぼされた人物であり、この時代の重要な大名だ。茶々の義理の父だったこともある。
柴田勝家は歩くごとにエネルギーが増して体も大きくなるという暴走状態にあった。どうやら本拠地から美濃と信濃の国境あたりまでが限界距離らしい。
続いての出来事は、その一度目の柴田勝家との会敵に際して、カルデアからやってきた坂本龍馬と合流できたことだ。龍馬は、マスターたちが消えたことでダ・ヴィンチから依頼を受けて茶室を調べ、アトラス院からトリスメギストスと一緒になぜか提供された高度なシミュレーター、すなわち茶々が勝手に持ってきたあの箱を発見。
このシミュレーターは極めて高度なものであり、高度すぎてその演算は特異点を生み出してしまうという、世界を滅ぼす天才を擁するアトラス院らしい発明品だった。
そのため、このシミュレーター内で生成されたこの特異点になりかけの空間を修正することで箱から出られると判断したカルデアは、坂本龍馬、岡田以蔵、沖田オルタの3騎をレイシフトさせたのだという。
龍馬と合流できたことでこうした情報を得られたのは良かったが、龍馬は調べ物があると言ってそのまま春日山城を後にした。
三つ目の出来事は、駿河攻めに際して、水着信長とやらから摩玖主教なる寺社勢力があると情報を得たことだった。摩玖主教は各地で慈善事業を行っている僧たちを排出する寺社勢力であり、この摩玖主教に属する謎のキャスターのサーヴァントと接触することになった。
西洋人らしい外見の摩玖主教のキャスター曰く、安土の魔王信長は日本のすべての生命を殺すことが目的だそうで、極楽浄土の「再現」を目指す摩玖主教も魔王信長の排斥に協力するらしい。
また、キャスターはもう一つ情報をもたらした。それは、柴田勝家に決定打となる存在が近江にいるとのことだった。
近江といえば、浅井家だ。浅井長政の妻であり織田信長の妹であったお市の方は、織田信長による浅井長政の討伐によって身寄りをなくし、三人の娘とともに尾張に戻ってから、柴田勝家の正室として嫁いでいる。その娘の長女が茶々だ。
そうして駿河、伊豆、遠江も平定すると、いよいよ東日本はほぼ制圧したため、残るは国境を接する近江、美濃、尾張となる。
近江は謎の魔力障壁によって入ることもできないため、いったんは尾張に赴き、「本物」と対峙した。
長可いわく「解像度の低い大殿」であり、その姿はまさに教科書で見たヤツだったわけだが、戦う前に毒殺されてしまった。
その犯人は、カルデアからこちらにやってきていた織田信勝だった。
こうして、戦うことなく尾張と美濃も平定する。
ちょうど同じタイミングで近江の結界も消えたため、全員で攻め込む運びとなった。
「そこまでかも!我が国を荒らす無法者ども!」
「あれ?茶々さんじゃないですか?」
黄金の日輪城を前に仁王立ちになる茶々に、対峙する沖田がポカンと問いかける。信長も城主に気付いて目を丸くする。
「なんじゃ、茶々ではないか」
「ん?そ、その声はまさか伯母上!?」
どうやら近江を支配していたのは茶々だったらしい。魔力障壁は、その魔力の質が後ろの黄金の城と同じであるため、恐らくこの城そのものの防御機構だろう。
信長はさっさと戻ってくるように言おうとしたが、茶々はそれを遮る。
「茶々は、今は亡き浅井家再興のため身を粉にしてここで頑張っていたのです!特に伯母上!浅井家の茶々と知っての戦ですか!」
「え?いや、そういう理由じゃと深刻すぎて、ちょっと、なんていうか…」
「そういう茶々も言っててしんどくなってきた……」
そして、格好良く口上を決めたにもかかわらず、信長も茶々もテンションを思い切り下げた。困惑するディルムッドに、唯斗も声のトーンを落とす。
「信長の妹、お市は政略結婚で浅井家に嫁いで、茶々をはじめ三人の娘をもうけた。でもそのあと、信長は戦局の変化によって浅井家を滅ぼす方に舵を切って、長政を討ち取った。伯父…じゃない、伯母の信長に父を奪われた茶々は、母と妹たちと一緒にしばらく尾張で過ごしてから、柴田勝家の家に行く。お市が柴田勝家の正妻になったからだ。でも、次に羽柴秀吉と柴田勝家の戦争になって、柴田勝家は籠城中に自害。お市も共に命を絶った。茶々たち三人の姫は両親を失って、それぞれ嫁いでいく。しかも茶々は、秀吉の正妻になって、徳川との戦争で息子とともに自害するんだ」
「……なんと………まったく、その、テンションと史実が乖離しすぎでは……」
「ほんとそれ」
なお、茶々、秀吉の妻としては淀殿は、最期に近江の海を辞世の句に詠んで命を絶った。こうやって茶々を追い詰めた徳川のうち、家康の息子に嫁いだのが茶々の末の妹である江であり、のちに大奥という制度を築き上げる人物である。
この浅井三姉妹の人生だけで、戦国の動乱をある程度語れるほどの重要な姫たちなのだ。
そしてこのことにこそ、柴田勝家攻略のヒントがあった。
柴田勝家の足を止める方法、それは心を揺らがすこと。侵攻を続ける柴田勝家は、茶々がただ「父」と呼んで休むよう呼びかけただけで、涙を流しながら消失していった。
仲の良かった浅井家であったため、その滅亡と急な柴田勝家の元への移住は、特に娘たちにとっては苦しいものだったが、柴田勝家は高貴な彼女たちを精一杯、武士として敬いつつ家族になろうと努めたともされる。
実際にどのような生活だったかは分からないが、それでも、茶々の表情を見れば、きっと、良い父であったのだろう。だからこそ、お市も北之庄に残って、炎上する城と最期を共にしたのだ。
どうせトンチキな空間であるなら、一貫してトンチキなものであってくれ、と、唯斗は多少なりともしんどい気持ちになりつつ、速くこのおかしなシミュレーターを止めなければと決意した。