ぐだぐだファイナル本能寺−15


こうして、東海・中部・北陸・関東を平定し、いよいよ近畿に攻め込む手はずは整った。
琵琶湖の南、安土に向けて6万の軍勢が侵攻することになっており、その指揮は織田吉法師と土方、沖田に任せる。

そして残りのメンバーで安土城に直接侵入し、大本を戦うという作戦だ。

唯斗はディルムッド、長可とともに城内を走り、立香とマシュ、景虎、信長、李書文も前を走る。畳の部屋を何度もふすまを開けて木組みの階段を開けながら進んでいるが、土足であっても畳は転びそうになる。

特に敵と出会うこともなく、信長が勝手知ったるということで先導しているが、それにしてもスムーズすぎる。
同じことを思ったのか、景虎も怪訝にした。


「妙ですね…さすがに備えが手薄すぎます」

「あっちが陽動ってこと、魔王信長にバレてるんじゃないか」


唯斗が応じると、景虎は頷く。


「そうですね、私もそう思います。これはいったん二手に…」

「気づいたときには手遅れじゃ!!」


しかしその瞬間、そんな声とともに、天上の板が外れて男が一人落ちてきた。目にも留まらぬ速さで立香に迫り、その首元目掛けて剣を振りかざす。
それが立香に当たる寸前、李書文がそれを拳で弾いた。


「…フン、いかにもアサシンがやりそうなことだな。儂が言えたことではないが」

「チッ!?なんじゃこのジジイ、なんでわしの不意打ちが読まれたがじゃ!?」

「えっ、以蔵さん?」


その声と土佐弁に、立香がきょとんとする。このアサシンは、レイシフトしたものの行方が分からなくなっていた岡田以蔵だった。
顔を隠すような傘を被りその様子は窺えないが、確かにその声や刀も以蔵のものだった。


「ああん?おまん、なんでわしの名を知っちゅう?そうよ!わしこそが魔王信長様の一の家来、『人斬りIZO』様じゃ!」

「うーん、これってわけを聞くまでもなくアレじゃない?いわゆる洗脳的な?」


岡田以蔵、幕末の四大人斬りと呼ばれる志士であり、尊皇攘夷思想のもと、天誅と称して幕府の要人たちを暗殺していった。天誅の名人と呼ばれるほどの暗殺の腕前は、江戸でも京都でも人々を震撼させるほどのものだったという。
最期には拷問の末に打ち首獄門となっている。


「フン、こうなったら仕方ない。おまんら、出てこい!ここでまとめて始末するぜよ!


以蔵がそう告げると、周囲のふすまや屏風が一斉に倒れ、後ろから武装した兵士たちが現れた。大河ドラマでよく見るシーンのようだ。蝋燭が揺らめき、周囲を完全に取り囲まれる。

李書文は敵の数を見て、手の関節を鳴らした。


「よし、おい小僧、儂に付き合え。ここで奴らを足止めする」

「誰が小僧だふざけんな!俺も魔王倒して手柄稼ぎてーんだよ!」


長可は渋るが、確かにその方が良さそうだ。こうした待ち伏せが一カ所とも限らない。
魔力消費の激しいバーサーカーを置いていくこともできないため、唯斗も残ることにした。


「長可、俺とディルムッドも残るから一緒にやろう」

「よっしゃやるぜェ!!」


からっと切り替えて槍を構える長可に苦笑しつつ、唯斗は立香の前に立ち塞がる兵士たちの足下の床を転移させる。


「ヴァズィ!よし、立香たちは先行してくれ」

「うん、ここは任せた!」

「では立香は私が」

「マシュはわしが運んでやろう」


悲鳴を上げて階下に落ちていった男たちに動じることなく、景虎は立香を、信長はマシュを抱えてその穴を跳躍する。
走り去っていく立香たちを見送ってから、ディルムッドは少しだけ心配そうにした。


「戦力差がありますが、大丈夫でしょうか」

「この特異点で契約したサーヴァントがいるから大丈夫だ。今はこっちに集中しよう」


すでに李書文と以蔵が互いに間合いに入っており、にらみ合っている。明治初期の人斬りと、中華帝政末期の武道家だ、当然、互いの実力を測っているだろう。


「長可、自由にやっていい。李書文なら避けられる」

「任せとけ!二人ともぶっ殺してやらぁ!!」

「…、ディルムッドは周りの兵の掃討。狭い場所だから俺を守りながら戦う方針で頼む、ってかこの場で俺を守りながら戦えるのディルムッドだけだから」

「承知しました。お任せを、必ず守ります」


ニコリとディルムッドは微笑んでから、周囲の兵士たちを睨み付ける。その切り替えの速さ、そして眼光の鋭さに、兵士たちは息を飲む。これが神話に語られる槍兵の圧力だ。
直後、兵士の一人が唯斗に斬り掛かろうとしたその瞬間、ディルムッドはその兵士と周辺の数人をまとめて薙ぎ払った。

一斉に薙ぎ倒された兵士たちの衝撃で、畳は外れふすまも倒れる。その音を合図に、長可は以蔵に人間無骨を突き刺した。すんでで避けた以蔵に、今度は李書文の拳が迫る。

長可の大仰な攻撃であっても、李書文は俊敏に避けつつ、以蔵への攻撃も続ける。さすがの身のこなしである。
ディルムッドは、唯斗に迫る兵士を即座に叩き伏せつつ、2本の槍を器用に使い分けて離れた兵士も突き刺していく。

そしてディルムッドがすべての兵士を床に沈めたのとほぼ同じタイミングで、一際大きな音を立てて以蔵がふすまを薙ぎ倒して床に倒れた。長可の槍で吹き飛ばされたところを李書文の拳でとどめを刺されたらしい。


「勝負あったな」

「どうする殿様?首刎ねとくか?」

「カルデアのサーヴァントだから、洗脳解けるまで拘束する。三人ともありがとう、立香たちに合流しよう」

「む、いや…マスターたちも戦闘を終えたようだ。魔王信長、案外すぐに倒されたらしい」

「え、マジか」


すぐに立香たちに加勢しようと思ったが、意外と速く片がついたらしい。立香の念話を李書文が受け取ったようで、報告してくれた。これで安土も平定だ。
ディルムッドはほっと息をつく。


「では、これでこの特異点も修復でしょうか?」

「いや、多分、時代を乱す空間であるなら聖杯があるはず。さすがに聖杯使った信長相手にこの速さで決着着くわけない。なら、聖杯は別にある…天下統一にあたって、まだ勢力として残ってるのは、摩玖主教か」

「なるほど、ではまだ戦いが続きますね」


聖杯は恐らく別の場所にあり、そして残る勢力は摩玖主教ただ一つ。ここからが戦いの最終局面となるだろう。


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