ぐだぐだファイナル本能寺−16
魔王信長を撃破したカルデア家は、無事に春日山城に帰還した。
元凶の信長が倒されたことで、吉法師を含む各地に群雄割拠していた信長たちも消失し、カルデアの信長に統合。それによって見た目が魔王信長のそれに変化している。
そして魔王信長に仕えていた明智光秀も、信長に仕えると言って春日山城にやって来た。
どうやら光秀は東国との戦いだけでなく、京都を支配する摩玖主教をも敵として見据えて情報収集をしていたらしい。
その語るところによると、天下統一は本能寺に居を構える摩玖主教をなんとかして初めて成立するとのことだ。
ちょうどそのタイミングで春日山城を訪れた摩玖主教のキャスターに、カルデア家と和議を結びたいという招待をもらったため、早速本能寺へと向かうことになる。
越後を出発して数日、一同は近江を超えて安土を経て京都を目指し、街道を歩いていた。
「ふぁ〜あ、なーんか気ィ抜けるな。ここにきて和議とかつまんねぇ話だぜ」
立香とマシュ、景虎、唯斗、長可、ディルムッドだけで歩いていると、長可が気の抜けるあくびとともにそう言った。新選組の二人や信長などは春日山城に残っている。
「和議で済めばいいけどな」
「どういうこと?」
唯斗が呟くと、聞き取ったのか立香が首をかしげる。
「ここが特異点として成立しつつあるってことは、時代を乱す聖杯と、時代を乱そうとする人物がいるはずだ。魔王信長はそうじゃなかった。なら、残る勢力である摩玖主教がそうって可能性が高いだろ」
「確かに…俺、このぐだぐだ特異点でそんな考えたことなかった…」
「さすが唯斗さんです、グランドオーダー初期から家老だっただけありますね」
「いや家老ではない」
そこまで気を緩めてどうする、と思ったが、このくらいの方がこんな意味の分からない空間では楽かもしれない。
唯斗の言葉には景虎も大きく頷いた。
「唯斗の言うとおり、これはまだ何かあるとみていいでしょう。もちろん、話し合いで済むならそれに越したことはありませんが、我らの槍が必要となる場面の方があり得る気がしますね」
「おっ、それならいいけどな」
長可はその方が良さそうだ。そして言われてみれば、ここにいる3騎のサーヴァントは全員槍を扱う。戦力としては十分のはずだが、いったいこのあとどうなるのか、予断は許されない段階だった。
そうして進むことしばらく、ようやく本能寺だという場所にやってきた。光秀は「様変わりしている」と言っていたが、確かに、盆地であるはずの京都が山岳地帯になっている。本能寺も山寺と化していた。
そんな山道を登っていくと、摩玖主教総本山の門に到着する。日光東照宮を彷彿とさせる豪華なものだ。
「ここが摩玖主教総本山…その、なんというか…」
困惑するマシュも尤もだ。
門から見える範囲で、僧兵たちは皆、酒を飲んで女を侍らせ肉料理に舌鼓を打っていた。下品な騒ぎ方をして、まるで宴会だ。
確かに、ここまでの道中の村も、働かずに生きていけると摩玖主教の配給だけで飲み明かす生活をしているようだった。
大人たちは村で遊び暮らし、子供たちはこの総本山で僧兵にさせてもらうべく勉強をする、そんな社会が構築されている。
「ん?なんだお前ら。あぁ、摩玖主様への参拝か?それは良い心がけだな、通してやるからアレをよこせアレを」
「アレ、ですか?」
門のところに立っていると、気づいた僧兵がやってきた。特に警戒することなく、腹の前で小さく手の平を上に向ける。
マシュがなんのことかと疑問符を浮かべると、僧兵は呆れたようにした。
「おいおい、大きな声で言うんじゃねぇよ。お前らここに来るの初めてか?あるだろ、心付けってやつだよ」
「うははは!坊主が賄とんのか!ぶち殺して文字通り仏様にしてやんよ!」
屈託のない笑顔で殺気を浮かべる長可に、唯斗は慌ててその腕を掴む。体格差から、どうしても止めようにもこうするしかないが、腕を組んでいるようで気恥ずかしくなる。
「こらステイ」
「わーったよ」
すんなりと引き下がった長可は、代わりに唯斗の腰を抱き寄せる。無意識のようだが、ディルムッドが咳払いをしたため、唯斗の方から離れてやった。
するとそこに、別の声がかけられる。
「あれ?カルデアのみんな、こんなとこで奇遇だね」
なんと、現れたのは龍馬だった。龍馬は慣れたように「いつもの心付けです」と言って僧兵に巾着を渡す。
龍馬は上乗せと言ってカルデア一行の分も払ってくれたため、全員そのまま通されることになる。
ここにレイシフトしてきた龍馬は何やら暗躍しており、いつの間にか商家を立てて商売をしていた。先の安土攻略においても、龍馬が近畿の米を買い占めたことでカルデアによる侵攻を可能にした。
龍馬は「用事がある」と言ってまたしても別行動を選び、本堂で別れた。長可はいまだに胡散臭いとぼやいている。龍馬の言動は確かに胡散臭いが、それもまた、幕末の世を巧みに渡り歩き日本の独立と文明開化をもたらす大きな流れを生み出すための方策だったものだ。特に嫌悪感などはない。