ぐだぐだファイナル本能寺−18


結局、どうすることもできないまま、一同は地下牢に閉じ込められた。殺されなかったのは意外だったが、動けなくするだけで殺し切ることはできなかったようだ。
地下牢にはご丁寧にサーヴァントを封じる拘束具まであり、3騎とも力を封じられている。
だがそれを抜きにしても手ぬるい、と感じる。


「どうしましょう、先輩…」

「唯斗だけなら出られるかもだけど、このサーヴァントを封じる拘束をなんとかしないと…」

「俺の殿様を牢に繋ぐたぁ死にたくて仕方ねえようだな」


鎖に繋がれている唯斗を見て、長可は静かにキレている。これはかなり頭にきているようだ。
落ち着かせる意味でも、唯斗は疑問点を口にする。


「それにしてもあのキャスター、なんで俺と立香を殺さないんだろうな。こんなことしなくても、俺たちを殺せばサーヴァントは消える。あの大僧正が仏道を弁えて殺生をしないんだとしても、キャスターは西洋っぽいサーヴァントだし」

「確かに、なんでこんな回りくどいこと…」

「やっぱり君は鋭いね」


するとそこに、牢の外から爽やかな声が聞こえてきた。
全員の視線の先には、牢の外で微笑む坂本龍馬とお竜、そしてあのキャスターがいた。


「いやぁ、私としては円満に済ませたかったんですが」


キャスターはそう言いつつ、牢の扉を開けて全員の拘束を解放した。一転して自由の身となった一同はついポカンとしてしまう。そんな視線を受けて、キャスターは相変わらず食えない笑みを浮かべた。


「改めまして、私はキャスターのサーヴァント、真名をマックスウェルと申します」

「確か、19世紀の科学者、でしたでしょうか?」

「ああ、ご存知でしたか。まぁ、厳密には違うのですが、今はそれで結構。私は皆さんにお願いがあって参りました」

「あ?願いだ?」


呆気なく真名を明かしたマックスウェルというサーヴァント。厳密には違うと言うが、どういうことか。
長可は唯斗を庇う位置に立ちながらマックスウェルを見下ろした。


「ええ。私を、破壊していただきたいのです」


それがどういう意図なのか、全員でまずは移動しながら地下道を進み、その道中で龍馬と二人で話してくれた。

まず龍馬曰く、この特異点はアトラス院のシミュレーターによって生成された空間であるため、大僧正が信長たちの戦いを横目にしれっと聖杯を手にした際、本来なら存在しない未来の科学に関するサーヴァントが召喚されることになってしまった。


「それが私、マックスウェルの悪魔というわけです」

「え、あの分子を観測する悪魔のことか?」

「はい。私は熱力学第二法則を否定する存在として考えられた架空の悪魔でして、どうしてかこうして霊基を得てしまったのです」


唯斗は意外な出自に驚いた。確かに今まで様々なサーヴァントがいたが、こんなものまでサーヴァントとなるのか。
マシュを含め、全員の目が唯斗に向く。説明してくれ、ということだろう。さすがに物理学は唯斗の専門外だ、唯斗とて深く理解しているものではない。


「…、さすがに俺も自信はないけど…そうだな、立香、エネルギー保存の法則は知ってるよな」

「あ、うん、中学でやった気がする。宇宙のエネルギー量は変わらないってやつだよね」

「そうそう。たとえば、焚き火でお湯を沸かすと、炎のエネルギーは水からお湯に温度を変化させることに使われる。でもそれで消失したわけじゃなくて、今度は沸騰したお湯が蒸発するエネルギーや、逆に温度が冷めていくエネルギーに変わったり、さらにそのお湯を飲んだら体の中で別のエネルギーになる。そうやって形を変えていくだけで、エネルギーは減ることも増えることもない。それが熱力学第一法則、別名エネルギー保存の法則」


熱力学第一法則は、魔術を知らない人々からすれば、魔法や瞬間移動、タイムトラベルなどの空想が一切実現しないことを突きつける物理原則だ。もちろん、魔術のエネルギーもこの法則に縛られている。だからこそ、魔法というものが魔術では実現できない領域にあるのである。


「そんで、熱力学第二法則はエントロピー増大則ともいう。エントロピーは、簡単に言えば状態の「乱雑さ」を示すもので、エントロピーが小さいと秩序だってるって感じだな。本来、エネルギーを使用すると、必ずエントロピーは増える。それが熱力学第二法則をとんでもなく雑に表現したものだ」

「なんとなく分かったけど、それを否定するって?なんか、エネルギー保存の法則は『宇宙の真理』って感じだけど、第二法則ってなんか微妙じゃん」


ぐさりと刺されたようにマックスウェルがたじろぐ。彼もまさか、第一法則と比べられてディスられるとは思わなかっただろう。サーヴァントになってしまった思わぬ弊害である。


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