ぐだぐだファイナル本能寺−19
「第一法則が『フィクションの否定』なら、第二法則は『無限の否定』と言えるかもしれないな。熱力学第二法則は、エネルギーの使用は必ずエントロピーを増大させることを意味するけど、それは同時に、エネルギーの使用には必ず外部からのエネルギーの供給が必要であることも意味する。言ってしまえば、永久機関は存在しないってことだ」
永久機関とは、燃料の提供を受けずに発電するというような、外部からエネルギーをもらわなくても何らかの効果を発揮するものをいう。
第一種永久機関と第二種永久機関に分類され、第一種永久機関は純粋な永久機関、すなわち、エネルギー源を一切持たない何らかの装置が、外部からエネルギーの提供を受けずに動作するようなタイプのものを言う。第一種永久機関は先ほどの熱力学第一法則によって否定され、エネルギーの総量が一定である以上、一方的にエネルギーなくしてエネルギーを使用するようなものは存在できないことになった。
一方、第二種永久機関は、エネルギー源を装置の一部として内蔵する何らかの装置が、外部から追加のエネルギー提供を受けることなく発動するものをいう。
「第二種永久機関は、汚い例で悪いけど、食いもん食って出した排泄物を食べて生きていくことができる人間みたいな感じだな」
「本当にどうにかならなかったんですかね、例」
マックスウェルは再び傷ついたように肩を落とす。立香も「うわ」という顔をしたが、どういうものかは理解していた。
「第二種永久機関を否定するには、外部からエネルギーの提供を受けることなしに何かの効果が発生することはあり得ない、と証明する必要がある。これが熱力学第二法則だな」
「あー、つまり、エネルギー源のある装置であっても、外部から何かしらエネルギーがないと動けないってことだよね。あ、だからエントロピー?絶対にエントロピーが増えることになるのか」
「お、そういうことだ。第二種永久機関の動作のためにエントロピーが増えることを証明できれば、第二種永久機関は存在しないことになる。そこで登場するのがマックスウェルの悪魔だ」
エネルギーが使用されればエントロピーが増える。つまり、第二種永久機関の動作に際してエントロピーが増えれば、エネルギーが使われたと見なされるため、それは永久機関ではなくなる。外部のエネルギーを必要としていることになるからだ。
しかし、その議論に大きな意味を持たせのがマックスウェルの悪魔だった。
「マックスウェルはこんなモデルを提唱した。分子レベルに小さい二つの箱AとBがあって、AとBの間には小さな穴が空いた仕切りがある。この仕切りの穴は開閉できる。そしてこの開閉をする存在がいるとする。この存在を悪魔と呼ぶ。AB二つの箱はそれぞれ移動速度の速い分子と遅い分子が混在していて、悪魔はAに速度の速い分子を、Bに速度の遅い分子を入れるように、分子がやってきたところで仕切りの開閉をする。やがてAには速度の速い分子だけになり、Bには速度の遅い分子だけになるわけだけど、速度が速い方が摩擦熱が生まれるから温度が上がって、逆に遅い方が下がるから、Aの温度は上がりBの温度は下がる。ここに、AとBそれぞれに温度の変化という効果が発生した。でもこの悪魔は開閉をしただけで、分子や箱に対して何かのエネルギーを与えたわけじゃない。つまり、エントロピーは増えていない。なのにAとBは変化がもたらされた。この悪魔の正体は?っていうことだ」
「……、わかんない…」
マシュはなんとなく分かったようにしているが、立香は頭がパンクしそうになっている。ディルムッドと景虎、長可はもう理解を諦めていた。