ぐだぐだファイナル本能寺−20


「ま、難しくて当然だ。俺だってよく分かってない。何より、この難問には100年以上答えは出なかった。答えが出たのは戦後、そして証明されたのは2010年だ」


マックスウェルの悪魔を解くことができなければ、第二種永久機関は存在することになってしまい、科学が土台から崩壊する。科学者たちは頭を悩ませてきたが、これは物理学の域を超えた哲学的な見地ですらあった。

そしてその答えこそ、「情報」である。


「この難問には、IT大手に勤める学者が答えを導き、2010年に日本の学者が証明した。この悪魔がエントロピーを増大させたことを証明できればいいんだけど、その鍵になるのが、悪魔が行う情報の処理だ。当たり前だけど、悪魔はAとBの間を行き交う分子を見て、それが速いか遅いかを見極めるよな。そして、人が記憶を忘れるように、悪魔にも記憶力ってのはあるから、そのうち過去の分子の情報は捨てる。この記憶の削除においてエネルギーが発生するんだ」

「なるほど、じゃあ、記憶の消去にエネルギーが発生することを証明できればいいってことになったんだ」

「そ。そんで2010年、『1ビットの情報を消去するためには最低でも、kT log 2の仕事が必要である』っていうことが証明された。仕事ってのは、物理学におけるエネルギーを使用して効果を発生させることな。こうして、情報の消去にはエネルギーの使用、つまりエントロピーの増大が必要あることが証明されて、熱力学第二法則は守られた」


これによって、情報物理学という新たな学問領域が生まれることになり、20世紀後半から急速に発達した情報社会における物理学を牽引することになる。
持ち直したマックスウェルは「分かりやすいご説明ありがとうございます」と礼を言う。


「そして、それを考えれば当然ですが、私の宝具の特徴は『無限の魔力』を生成するというものです。そう、私の存在とは第二法則の否定と第二種永久機関の存在を受容するもの。だからこそ、無限の魔力をもたらすのです」

「そっか、第二法則は『無限の否定』だから、それを否定する悪魔は逆に無限を肯定することになるのか」


先ほどのサーヴァントたちの動きを封じる莫大な魔力放出は、マックスウェルの宝具によるものらしい。


「本来なら唯斗君の言ったとおり、現代でもマックスウェルの悪魔は否定されている。でも、ここはアトラス院のシミュレーター『ロゴスリアクト・ジェネリック』が展開した世界」

「そう、そのような世界であれば私のようなサーヴァントも成立する、ということです」


龍馬の補足に、マックスウェル自身が付け加える。
ちょうどそこで、一同は地下道の終点、本堂の地下に広がる巨大な地下空間に到着した。


「そしてここが、私の宝具が収められた炉心です」


広大な空間に入ると、そこには、中央に巨大な多面燈籠が立っており、屋根からは仏具が垂れ下がっている。
空間の壁を取り囲むようにカプセルのようなものが並び、そこから大量のコードが燈籠型の炉心に伸びていた。
そのカプセルを見た長可は顔をしかめる。


「おいちょっと待て、この筒みてーなのに入ってんのは…」

「はい、周辺で集められた子供たちです。彼らから吸い上げた魔力で稼働しております」

「な…ッ、」


凄惨な事実に全員が愕然とする。なるほどな、唯斗と内心で納得する。
魂は高度なエネルギー体であり、単体で存在できれば永久機関となる。そして魂が単体で存在できるようにするためのものが第三魔法である。


「ひでぇインチキ宝具じゃねぇか」

「ええ。このような状態は永久機関の実現を目指す私にとっても屈辱でしかありません」

「…だから儂を裏切り、そ奴らに己を破壊させようというわけか、キャスター」


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