ぐだぐだファイナル本能寺−21
そんなマックスウェルに冷たく言葉を投げかけたのは、炉心の後ろから出てきた大僧正だった。
マックスウェルの願いは、不完全な自分を破壊してもらうこと。熱力学第二法則の否定という高尚な学術概念であったはずの悪魔をこんな不完全で無様な形に貶める、それに対してマックスウェルは我慢ならなかったのだ。
「こんなこと許されると思ってるのか!」
現れた大僧正に早速立香が食いかかる。大僧正は意に介した様子もなく、素直に頷いた。
「思っておる。いくらかの犠牲で最大多数の最大幸福が得られるのだ。貴様ら大名がやっていることと同じであろう?」
「バカこいてんじゃねーぞ!ガキ殺してうまいもん食ってるような野郎が偉そうに世の中語ってんじゃねーよ!」
バーサーカーなのに正論とは、さすが大名経験者だ。
龍馬は声音こそ変えないながらも、大僧正に冷徹な目を向ける。
「その犠牲ってやつ、いくらかとは言えないほどの数になってきてるんじゃないの?僕が調べた限りだと、月に数回なんてレベルじゃない数の子供たちが集められている」
「その通りです。この炉心の活動のために、摩玖主教はシミュレーターを飛び出して、現実世界に侵食を図ることでそれを補填しようとしています。この空間の日本を犠牲にして」
「え、それ手段と目的を履き違えてるじゃん…」
立香ですらも正論を突く。もはや、この男の語るところに正義などなかった。世界を救うために世界を犠牲にするなど、本末転倒というレベルではない。
すると、ディルムッドが槍を構えて前に進み出た。
「マスター、もはやあの外道と語ることなどありません。倒すべき相手が前にいる、ただそれだけです」
「ハッ、ここにきて初めて意見が一致したじゃねぇか、ケルトの槍兵さんよォ!」
長可も人間無骨を構える。またしても正論だ。
そう、これ以上の問答は不要。ここで倒すだけである。
「無駄なことを…!」
大僧正はそう言うと、突如として空間全体に黒い巨人のようなものを出現させた。ドロドロと液体のような巨人は、大量の禍々しい魔力を垂れ流しながらこちらに迫る。
「そっちは任せたぜ!」
「承知、背中は貴殿に預ける」
明らかに戦力差が覆ったにもかかわらず、ディルムッドと長可は互いに背中を預け合い、敵軍に突っ込んでいった。
そして、次々と巨人たちを薙ぎ倒していく。
巨大な人間無骨が数体まとめて薙ぎ払い、次に現れたものを突き刺して頭上に抱えて魔力を放出、体を内側から四散させる。
その隙に長可に近づく個体数匹を、今度はディルムッドの紅の槍がまとめて吹き飛ばし、黄色い槍で自身に迫る個体を突き刺す。続けて長可は別方向に体を捻って槍を突き出し、3体まとめて串刺しにした。
息の合った攻撃を畳みかけていく二人に、唯斗は呆然とする。
「…ま、根っこは同じ戦士ってことか」
肩を竦めて、唯斗は気持ちを切り替える。二人が一気に敵との距離を作ってくれたおかげでこちらには余裕がある。
「立香とマシュは俺が守るから、龍馬とお竜さん、景虎は気にせず戦ってくれ」
「了解、気をつけてね」
「お竜さんに任せておけ」
龍馬とお竜は頷いて長可たちとは別の方向に向かい、景虎も応じて誰もいない方面へと槍を振るわせる。
ディルムッドと長可が一番唯斗たちに近いところで戦っているため、周囲を大きく動き回りながら、唯斗たちに近づこうとする敵性体を沈めていった。
これなら結界を展開せずとも大丈夫そうだ、とは思ったが、一方で、一向に敵の数が減らないことに舌打ちをつく。
「…くそ、立香、敵が減らない。やっぱりあいつは無限に敵を生成してる、これじゃジリ貧だ」
「…そうだね、いったん地上に撤退しよう。子供たちのいるカプセルも傷つけたくないし」
「ほう?逃げ場などないがな」
大僧正は聞いていたのか、炉心の前で嘲笑って見下す。
とにかく地上へ出なければ。