悪性隔絶魔境新宿I−18
すべての準備が整い、全員揃って靖国通りへと向かった。
爆弾の仕掛けられたコロラトゥーラはアーサーが運び、靖国通りを歌舞伎町一番街近くまで来たところで解き放つ。
靖国通りを挟んで北側は歌舞伎町、南側は新宿三丁目となっている。
三丁目側のビルの間の路地に隠れながら様子を窺っていると、アルトリアがコロラトゥーラを見ながらアーチャーに確認する。
「爆発の規模は?」
「少なくとも混乱は引き起こせること請け負いだ!マスター君、スイッチは準備できているかな?」
「…うん」
「よろしい!では二人は所定の位置へ」
アルトリアとジャンヌは元の霊衣となって武装する。二人は爆発後の歌舞伎町でコロラトゥーラの数をひたすら減らす役割だ。
「了解した。マスター、雨宮、あまり力むなよ」
「せいぜい足掻きなさい。あと、みっともなく泣き喚くんじゃないわよ。あんたらのやってることは間違いじゃない。それだけは心に刻んでおきなさい。さもないと燃やすわ」
二人はそう言うと、高く跳躍して歌舞伎町へと向かっていった。アーチャーとアーサーは立香と唯斗と行動する。
「では、あと10分だ。やれるかい?」
「やれる。唯斗と一緒だし」
「立香一人でも決意したはずだけど、幸い俺もいるからな。二人で戦う。新宿がどんな場所であってもな」
立香が持った爆弾のスイッチに、唯斗も手を添える。手を繋ぐような形になったが、アーチャーは二人を見て微笑む。
「そうか、やれるのか。うん、なら、それでいいんだろうな。では爆破しよう!」
「…やろう、唯斗」
「あぁ」
二人で一緒にボタンを押そうと息を合わせようとしたときだった。
アーチャーはおもむろに、「ポチッとな」と言って、その手に隠し持っていたらしいボタンを押す。
その直後、歌舞伎町から爆発音が轟き、空気が振動して鼓膜を劈くような爆音が響き渡った。雑居ビルの向こうに爆炎が立ち上り、爆風によって一番街のアーチ看板が歪む。ガラスが割れ、無数のネオンが落下する。
続いて、アルトリアとジャンヌの戦闘音も聞こえ始める。
「え!?まだ押してないけど!?」
「私が押した!!」
「なんで……」
思わずポカンとする立香と唯斗に、アーチャーは少し困惑したようにする。
「なぜだろうな、分からん。その覚悟を見せてくれただけで十分すぎたというか…私は過去を綺麗さっぱり忘れているが、一つだけ確実な要素がある。私は間違いなく悪人だ。そして君たちは己の手を汚す覚悟を見せた。私はその覚悟で十分だと考えた」
「まるで性悪なマーリンのようだね、あなたは」
「騎士王に言われるのは少し心苦しいな」
呆れたようにするアーサーに、アーチャーは肩を竦める。
「…大事なのは鋼鉄の意志だ。踏みにじることを許容する殺意。目的のために前進する覚悟。聖杯戦争とは、人理を修復する戦いとは、そういうものだ。さあ、行こう!」
本来の聖杯戦争はマスター同士の殺し合い。相手を蹴落とす覚悟が必要なものだ。
アーサーはそれをよく知るだろう。
アーチャーが先陣を切って靖国通りに飛び出し、立香も続く。その後を走り出すと、アーサーが隣を走りながら唯斗の肩を叩いた。
「君たちらしい決断だった。ギルガメッシュ王がウルクで言っていた通りだ。君たちはそこに在るだけで正しい」
「…、ありがとう、アーサー」
この爆弾のスイッチを巡り、アーサーは最後まで何も言わなかった。すべてを唯斗と立香の決断に委ねていた。
きっと、爆弾を二人が爆発させたとしても、アーサーは隣で同じことを言ってくれただろう。そうやっていつもアーサーは見守ってくれていた。