悪性隔絶魔境新宿I−19
あちこちのビルから炎が上がる中、コロラトゥーラの残党を倒しながら、今は映画館の高層ビルが建っている場所までやってくる。
2015年に映画チェーンの高層ビルが建設される以前は、新宿ミラノ座やコマ劇場などがあった広場である。
爆発によって広場のアスファルトは砕け、街灯は曲がり、劇場の建物は半壊している。
そしてその炎と黒煙に包まれた広場で、ファントムの隣に金髪の人形がガタガタと言いながら立っていた。
どうやらクリスティーヌは幻霊として半端に召喚され、人形に押し込められているらしい。ファントムはそんな彼女を哀れんで、ともに狂気の渦に堕ちていっているのだ
「観客がまだ足りぬ!喝采も称賛もまだ足りぬ!この絶対の美声、空前の音に酔いしれて幾年月を過ごそう!」
「
歌いましょう、
歌いましょう、
歌いましょう、すべて、すべて、すべて」
『魔力反応増幅、来ます!』
マシュが鋭く警告するとともに、クリスティーヌがこちらに突っ込んできた。それをアーサーが聖剣で受け止めて、撥ね除ける。
さらにアーチャーがファントムにミサイルを棺桶から射出して爆破する。
ファントムは鋭い鉤爪でアーチャーに攻撃を仕掛け、クリスティーヌもアーサーに連続して打撃を行う。
すると、倒し漏れたコロラトゥーラたちが広場に入ってきた。ほとんどが一度は爆発によってダメージを負っているようだったが、アーサーとアーチャーはファントムたちにかかりきりとなっている。
「アーチャー!アーサー王から少し離れて戦って!」
「了解!」
アーチャーはファントムを連続爆撃によってクリスティーヌから離すことで、コロラトゥーラたちとこちらとの間に交戦区域を持ってくる。
それでも徐々に囲まれつつあった。
「立香、そっち頼んだ。ガンドでもギリ倒せるはずだ」
「分かった!」
残りのコロラトゥーラたちは自分らでなんとかするしかない。
「
天よ、地よ、真実を見よ!」
唯斗はメンヒルによる爆破を起こして一気に数を減らしてから、立香と背中合わせに立つ。
後ろを立香に任せて、唯斗も人差し指をコロラトゥーラたちに向ける。
立香も次々とガンドを放ってコロラトゥーラを破壊していき、唯斗は背中に触れる立香の体温を僅かに感じつつ、ガンドや転移魔術によってコロラトゥーラを停止させていく。
「唯斗、場所代わっていい!?」
「了解、」
当然だが唯斗の方が倒せる数が多いため、立香は距離を詰められつつある中で場所を入れ替えることを提案した。
唯斗はすぐに立香と場所を入れ替わり、攻撃を再開する。唯斗が数を減らした方向に散会するコロラトゥーラたちであれば立香でなんとかできるだろう。
そこへ、コロラトゥーラの一体がこちらに鋭い足を向けて突っ込んできた。三丁目交差点で、結界を破壊した魔力攻撃だ。
「
鉄の人よ、天より来たれ!」
瞬時に強力な方の結界を展開して攻撃を受け止めると、すぐにそのコロラトゥーラを剣が吹き飛ばす。バラバラに砕け散るコロラトゥーラが地面に散乱した。
アーサーはどうやらクリスティーヌを倒したようで、すぐに助けにきてくれたようだ。
「よく二人で耐えたね」
「ありがとな。アーチャーも倒したっぽいか」
ファントムも追い詰められたようで、地面に散らばったクリスティーヌの破片のそばに倒れた。アーチャーはミサイルの発射を止める。
先にクリスティーヌが消失すると、ファントムも悲嘆に暮れたようにしながら破片の散っていた地面に手を寄せる。
しかしその直後、ファントムは突如として爆発した。まるで爆弾が仕掛けられていたかのように。
「壊れているなら壊れたサーヴァントらしく、最後まで醜く足掻いて死ね」
『この霊基反応は…エミヤさん!?』
そこに現れたのは、なんとエミヤ・オルタだった。肌はより浅黒くなっており、髪の毛は白いが短く、刈り込みも入れている。そしてその手には銃を持っていた。サーヴァントが銃を持つというのは極めて珍しい。銃の時代に英霊となり得る人物がそういないからだ。
「あいにくと俺にとってあんたたちはただの獲物だ。俺は気にせずあんたたちを殺す。あんたたちも俺を気にせず、殺されるといい」
オルタ化したエミヤが敵にいることは聞いていたが、ここまで大きく変転しているとは。
逆にこうも異なる存在であれば、カルデアのエミヤを連想することはない。
そのまま戦闘となるかと思われたが、広場に突然、呪腕のハサンが現れたことでエミヤ・オルタは撤退していった。
ハサンは当然、第六特異点の記憶はないようだったが、立香をマスターと仰いで合流することになった。
とりあえず、これで新宿のバーサーカーは倒して歌舞伎町の脅威は去った。新たに味方となるサーヴァントも現れて上々の結果と言えるはずだったが、唯斗は少し気になることがあった。
エミヤ・オルタはアーチャーの真名を知っているらしく、「あなたほど有名な人物を知らないはずがない」と述べた。
本当にこのままアーチャーと戦っていいのか、信用していいのか。そして、この新宿ではいったい何が起きているのか。
分からないことばかりの中で、唯斗は少しずつ、不安な気持ちが蓄積されていくのを感じていた。