サーヴァント・サマー・フェスティバルI−1
7月31日、新宿の事件からカルデアに居着いていたホームズが正式にカルデア着任となり、様々な資料にホームズのサインを見るようになったころ、カルデアは夏期休暇期間に入った。
8月はどの国もホリデーシーズンで、例に漏れずカルデアも8月は夏期休暇期間だ。もちろん、欧州本国のように1ヶ月まるまるというわけにはいかず、なんなら数日間だけの日本に近い間でしかないが、そもそもこの閉鎖的な場所では長い休みは逆に苦痛だ。
本来、査問が終わるまでは立香も唯斗もカルデアから出られない。そのため、暇な数日間を過ごすことになるのだと思っていた。
「ということで、君も立香君と一緒に目隠ししたままハワイ行きだ」
「意味が分からないなマジで」
何が「ということで」なのか意味が分からないが、ダ・ヴィンチはそう言って話も聞かずに唯斗に魔術をかけた。目が開かなくなり、視界が暗くなる。
「……ダ・ヴィンチ」
「そう低い声を出さないでくれよ?なにせ事態は急を要する。1秒足りとも無駄にはできない。正確に言うと、ブエノスアイレスでのトランジットに間に合わない」
「ダ・ヴィンチ女史、ハワイにフォーリナーが観測されたというのは本当なんだね?」
管制室にアーサーと二人で呼び出されるなり、ろくな説明もなく視界を塞がれた唯斗だったが、短く端的な説明ですでに状況の理解はしていた。
突然、アメリカ合衆国ハワイ州においてフォーリナーの反応が検出され、マウナケア天文台にあるカルデアハワイ支部から救援要請が入ったのである。
先日見つかったばかりのボイジャーや北斎のクラスだが、正確には英霊ではないため、ハワイに現れた理由というのを調査しなければならない。もとは外宇宙の存在、そう簡単に地球とアクセスして良いものではないのだ。
「本当だとも。しかし魔術協会を待っている暇はない。そこで、民間機によるフライトでハワイまで向かって欲しい。この目隠しは、カルデアの場所を秘匿するための方法さ」
「いや、俺はここがどこにあるのか知ってんだけど…」
「建前だよ、建前。きちんと秘匿処理を行ったという体裁が必要なんだ。我慢して騎士王のエスコートで向かってくれたまえ」
「10時間以上のフライトが2回って結構だろ…だりぃけど任せた、アーサー」
アイマスクまでされてすっかり視界が塞がれてしまったため、唯斗は腕を出してアーサーに呼びかける。すぐに唯斗の両手が取られたが、アーサーの動きがそこで止まった。
「…………、」
「おーい騎士王くーん、新しい性癖の扉開いてないでとっとと唯斗君を連れて行ってくれよ〜」
***
長いフライトの末に、ようやく唯斗は目隠しから解放された。正直、ブエノスアイレスからここまでは目隠しはいらなかったのではと思ったが、それだけ長い時間継続する術式だったためずっと暗いままだった。
そうして目を開けると、そこはホノルル空港のようで、南国らしい暑さではなくエアコンのガンガン効いた寒い室内だった。この肌寒さも逆に南国的だ。
「お疲れ様、マスター。結局すごく眠っていたね」
「寝るしかやることないしな」
唯斗は伸びをしながら答える。フライト中はずっとアーサーに凭れて眠っていた。
大きな窓の外には、暑そうな夏の空が広がり、空港内は人々のざわめきで満ちている。
はしゃいでいる立香とマシュ、同じく同行しているジャンヌ・オルタとロビンフッド、茨木童子、牛若丸。一応はフォーリナー調査が名目だが、全員、フォーリナーは一瞬で倒して残りの日数をすべて観光で使う気でいっぱいだった。
ターンテーブルの荷物を待つ間、唯斗はマシュに声をかけた。
「マシュ、先にハワイ支部に連絡取ってくれ」
「あ、そうですね。通信かけてみます……と、あれ?繋がりません。回線は開いているのですが…」
「なんだそれ。まぁ、それならとりあえずパスポートコントロールだけでも通過して…」
「ふっふっふ、まだそんな悠長なこと考えてるんですか〜?」
しかし通信は繋がらず、何か誤作動かと先にパスポートコントロールを抜けようとしたが、そこに、嫌な予感のする軽薄な声が響いてきた。
「ここは来る者は拒まず去る者は決して逃がさない、そんな天国と地獄のフリーアイランドになったんですから!セ・ン・パ・イ♡」
「こ、この声は…!」
「はーい、哀れなマスターさん2名と、サーヴァントさん6名ごあんなーい!月のスーパーAIムーンキャンサーBBちゃん、今回はセンパイを応援する水着で登場です!」
なんと、そこに現れたのはBBだった。
SE.RA.PH攻略後、カルデアに居着いたサーヴァントで、ここしばらくは特に目立つこともなかったはずだ。何やら急に出張ってくるとは、あの電脳空間での出来事を思い返せば、本当に嫌な予感しかしない。
アーサーも顔を険しくして、いつでも剣を出現させられるように準備していた。
「さあ!今こそすべてを一つにするとき!ハワイ観光にも行きたい!ホノルルでのんびりバカンスもしたい!そんな願望を叶えるのが万能ヒロインBBちゃんの悦びですから!それでは、気合いを入れて、せーの!特異点、成立ぅ〜〜!!」
まるでカップルが成立するときのやつのように言ったかと思うと、突然地面が揺れ始める。
そして、BBの言うとおり、ハワイ諸島がこの瞬間、特異点と化した。
「皆さん、ようこそ特異点ルルハワへ。この島の支配者として歓迎しちゃいますね!」