サーヴァント・サマー・フェスティバルI−2
トンチキな空間には、先日の本能寺のことで慣れたと思っていたが、世界はもう少し奇想天外なことで満ちていた。
この特異点ルルハワは、オアフ島とハワイ島が一つになってしまったものであり、なぜか同人誌即売会の会場になっていた。
しかもこの即売会というのが、サーヴァントのサーヴァントによるサーヴァントのためのもの、つまりはサーヴァント・サマー・フェスティバルなるものだそうで、定期的にサーヴァントたちが参加していたのだそうだ。しかも、カルデアのサーヴァントだけでなく、カルデアにはいない英霊たちも含めて開催されているらしい。
唯斗のサーヴァントを含め、やたら英霊たちがカルデアからいなくなっていたと思っていたが、全員、このルルハワで観光や同人誌制作に勤しんでいるとのことだ。
普段は座でやっていたとでも言うのだろうか、と唯斗は召喚術の家系として信じがたい現実を目にしている。
そしてこの即売会の主催がBBであり、これが終われば特異点は自然と消える、と言っていた。それが本当なのかは分からなかったが、現状、BBに敵意はない。
問題はむしろ、この即売会に参加することになってしまったことだった。
同人誌なるものとはまったく縁がなかった唯斗だが、同行していたジャンヌ・オルタが、ルーラーのジャンヌ・ダルクが壁サークルで売り上げ1位を出して例年優勝しているという話を聞いて闘志に満ちてしまい、巻き込まれる形で同人誌制作に関わることになってしまったのだ。
茨木童子は離脱したが、立香にお供する形でマシュと牛若丸も加わり、ロビンはなぜかBBに「立香が新刊を落とすとブタにされる呪い」をかけられてしまったことで、立香のサーヴァントたちはみんな参加することになった。
そうなってしまえば、いくら絵心がない唯斗とアーサーといえど乗らないわけにはいかず、立香に付き合って手伝うことになる。ほとんど戦力にはならないだろうが、どうせやることもない。
そうして、空港で出会った黒髭に近くのシュラットンホテルのキープされた客室を貸してもらえることになり、一同はホテルに移動。
全員がスイートルームに宿泊することになり、同人誌制作の現場となるジャンヌ・オルタの大きなファミリー用スイートには立香とマシュも泊まっている。
ロビン、牛若丸はそれぞれで2名用のスイートをとっており、そして唯斗はアーサーと二人で一つの部屋にした。客室数を増やしても良いことはない、という建前だったが、アーサーが進んで同じ部屋にすることを提案したとき、立香がニヤニヤとしていたため、すべてお見通しだろう。
その気恥ずかしさから逃げるように、まずは早く体を休めたいと部屋に急いだ唯斗だったが、部屋に荷物を置いた直後、近くのワイキキストリートにフォーリナーが現れこれと交戦。
まったく見たことがないロボットアーマーを身につけたフォーリナーは離脱した。
これによって、今後の方針が確定する。
まずは同人誌制作に向けて資料集めという名の観光をしつつ、フォーリナーの情報も集めて出現したら交戦、ホテルに戻ったらジャンヌ・オルタの部屋で本の作成というスケジュールである。
そこまで決まったところで、ようやくホテルの部屋で一息つくことができた。
「…にしても、ほんとすごい部屋だな」
「高級ホテルなんだろう?もっと広い部屋じゃなくて良かったかな」
バルコニーから美しい海を見ていると、アーサーが後ろから抱き締めてくる。部屋を決めたのはアーサーだったが、特に文句などあるはずもない。
「広くてもどうせくっつくだろ」
「…ごもっともだ」
小さく笑い、アーサーは唯斗の髪にキスを落とす。
2名用のスイートルームに二人で宿泊するなど、これは立派な旅行だ。まさかカルデア勤務中、しかも人理再編中にこんな時間ができるとは夢にも思わなかった。
部屋はスイートだけあって、キングサイズのダブルベッドのほかに、独立したシッティングスペースにソファーが3脚とローテーブルがあり、それとは別にダイニングスペースにダイニングテーブルがある。洗面台も二口あり、冷蔵庫も大きい。
「…本当にいいのかな、こんなとこで泊まって」
「君たちはそれだけの功績を成し遂げただろう?この海も空も、君たちが取り戻したものだ」
「…アーサーと一緒に、な」
数ヶ月前まで、この光景も赤い炎に包まれていたのだろう。人理焼却後、カルデアの外に出るのはこれが初めてなわけだが、今になってようやく、世界を取り戻したのだと実感できたような気がした。