サーヴァント・サマー・フェスティバルI−3
翌朝、事前にロビンに指定された時間に起きて支度をし、アーサーと二人でジャンヌ・オルタの部屋まで行くと、ちょうどロビンたちが出てきたところだった。
「おっ、唯斗さんたちも来ましたね。これから1階に降りて朝飯ですよ」
「ビュッフェ式だって!楽しみ!」
ロビンははしゃぐ立香に苦笑しながら引率する。こういうところの面倒見の良さは相変わらずだ。
この空間にはサーヴァントたちが大勢いるため、霊衣はなんであっても浮かないが、ロビンの水着姿の方がやはり自然だ。詰め襟のアーサーは、甲冑こそ消しているが、正直暑そうだった。
1階に降りて、朝食会場となっているレストランに入る。海に面したレストランは、外にパラソルの下のビーチ席もあり、恐らく夜になると火が灯されるのであろう大きなハワイアン様式の燭台があちこちに鎮座している。
朝食はホテルならではのビュッフェスタイルで、海に近い席を確保してから、入れ替わりで順番に皿を取りに行く。
唯斗もアーサーと二人でカウンターに向かうが、サラダ、魚、肉、果物、スイーツ、中華、イタリアン、フレンチ、和食までより取り見取りである。
「すごいな、全部食べたくなってしまうね」
「やるなよ、さすがに」
「やらないよ、さすがに」
アルトリアならまだしも、アーサーはそこまで食い意地は張らない。食べられるというだけで、いつも食べまくっているわけでもないのだ。
とりあえず、スクランブルエッグとソーセージ、ワッフルを皿に乗せて戻ろうとしたが、アーサーに止められる。
「おっと、それだけかい?」
「…、や、朝だし……」
「カルデアと違ってここは常夏の楽園、気候がまったく違うだろう?きちんと食べないと倒れてしまうよ」
「気が向いたらまた取りに来る」
「まったく…」
アーサーはきちんとサラダと肉類、パンなどの主食とをバランスよく2皿にまとめている。二人で戻ってくると、他のメンバーは食べ始めていた。
テーブルについて唯斗もスクランブルエッグに手を伸ばす。柔らかく、まるで雲のような食感だ。ワッフルはリエージュ風の固めに焼いた生地で、意外としょっぱいものと相性が良い。
「おや、唯斗さんはそれだけっすか?だめでしょー、食えるとき食っとけって」
「げ、ロビンまで」
「そりゃ俺はジャーマネとして進捗管理する立場ですから?そうだ、これ食ってみな、バナナシロップ絶品なんですわ」
唯斗の取り皿の少なさに目敏く気づいたロビンは、前の席から身を乗り出してパンケーキを差し出してきた。バナナシロップがかかっているというパンケーキは、見た目にあっさりとしていて美味しそうではある。
ぱくりとロビンの手ずから口に入れると、確かに爽やかながらクリーミーな甘みが口の中に広がり、バターのしょっぱさとのハーモニーを感じられた。
「うわ、めっちゃ美味しい」
「でしょ?後で取りに行くといいですよ」
ニカッと笑ったロビンに頷くと、給仕スタッフが紅茶かコーヒーを尋ねてきた。コーヒーを頼めばすぐカップに入れてもらえる。
この調子ならパンケーキもいける気がする。ロビンの気遣いの細やかさは、罠や策略によって勝つ日頃の戦闘方法にも通ずるものがあった。
「なんか、ロビンってマジで彼氏力高いな」
「な、んです急に」
「声裏返ってるよロビン」
立香がからかうと「うっせーですよ」とたしなめて、ロビンは少し呆れたようにする。
「それ、隣の騎士王サン怒りません?」
「あ、やべ」
特に何も考えずに言った唯斗だったが、右隣にはアーサーが座っている。怒っただろうか、と見上げると、アーサーはぶすっとしていた。
「マスターは僕に不満があったかな?」
「ちが、そういうんじゃねぇけど、こう、やっぱほら、アーサーだって王様じゃん?ロビンは庶民派だから」
「なるほど。では僕も、少し庶民的に形から変えよう」
「……ん?」
アーサーはそう言うと、ぶすくれた表情を引っ込めて、代わりに朝に似つかわしい爽やかな笑顔を浮かべた。
「僕も水着になるとしよう。人捜しに付き合ってくれるかな?マスター。ちなみに君の水着は礼装として機能するものをカルデアから預かっている」
「え、なんでそうなるんだ…つか水着って霊基変わるんじゃねぇの?」
そう、牛若丸やジャンヌ・オルタも、水着になると同時にクラスが変わっている。霊基が変わっているからだそうだ。ロビンはクラスこそ変わっていないが、霊基ごと弄って水着になっていた。霊衣を任意で変更できるようになっているのである。
「クラス変更とまではいかないだろうけど、僕とてこの場に相応しい服装になるべきだろう。どうせマーリンも来ているだろうから、ちょっと引っ捕らえて来よう」
「ええ…まぁ、アーサーの水着見たいから許可する。ロビン、俺たちはちょっとマーリンを拉致してくる」
「はいはい、どうぞお好きにイチャついてきてくだせぇ。ちゃんと資料の写真は撮ってくださいよ」
最低限の名目は守るつもりである。それにしても、まさかアーサーがここまでするとは。この騎士王も、やはりハワイという場では浮かれるのだな、と南国の魔力を思い知った。