サーヴァント・サマー・フェスティバルI−4
「そんな理由でいたいけな花のお兄さんを恐喝しているのかい?君のキャメロットはゴッサムシティにあったのかな?」
街中でナンパしていたマーリンを発見した二人は、適当に難癖をつけて路地裏に引きずり込み、アーサーが聖剣をマーリンの顔の横に突き刺して穏便な話し合いをすることにした。
マーリンもいつもの暑苦しい格好ではなく、ネイビーのシャツに長いストールを巻いた爽やかなスタイルである。しかしその端正な表情はわざとらしく歪められていた。
「マイロード、こんな横暴許されるというのかい!?」
「ごめんマーリン、俺もなるべく流血沙汰は避けたいんだ」
「流血沙汰を避けたい人のムーヴじゃないよこれ」
薄暗い路地、表通りと違ってゴミがところどころに落ちた街の裏側、照りつける日差しも届かない建物の間で、聖剣を壁に突き刺して霊基を弄るよう丁寧なお願いをしている状況だ。どこにも不自然な点などない。
「ちなみに色はアーサーの瞳と同じエメラルドグリーンでグラデーションとかしてるといいと思う」
「うん、僕も意外と君のセンスがいいことに驚いているけれど、この話の聞かなさ、君もルルハワで浮かれているね?というか、別に霊基を弄って霊衣の調整をしなくても、霊衣を消して普通の服を着ればいいだろう。特にアーサー王は霊体化しないんだから」
「確かに私はアルトリアと同じく霊体化はできない、死んでいないからね。だが霊衣じゃない場合、戦闘で破けたり汚れたりするだろう」
そもそもサーヴァントたちが霊基をわざわざ変更してまで水着になるのは、普通の衣服だと霊体化の際に落ちてしまうことや、戦闘で駄目になってしまうことが理由としてある。やはりサーヴァントたるもの、戦うことこそ本分である。
アーサーのように死んでいない英霊、と言ってもそんなものはアルトリアたちとアーサー、マーリンくらいのものだが、一部の者たちは霊体化ができない。それでも戦闘時の懸念は残る。
「もー、しょうがないなぁ。このお礼として、マスターとデートさせてもらうくらいのことは許されるんじゃないのかな」
「君がデートだけで済ませられる人物であれば私も許可していたよ。今回マスターも水着になる、その姿を見せてあげるだけで十分だろう」
「え、君も水着になるのかい?礼装は?」
マーリンはアーサーの霊基を弄る準備をしながら、唯斗も水着になると聞いてキョトンとする。立香ほど礼装に頼らない唯斗であるが、やはり緊急時には礼装の機能に助けられることも多い。
「なんか、俺の分も水着で礼装作ってくれてたらしい。立香は去年の夏も水着礼装でどっか行ってたみたいだけど、俺は不参加だったから、今回が初めてだ。なんなら、こういう私服として着る水着自体初めてだな」
「そうかそうか。それは良いことだ。何事も形は大事だからね、浮かれるなら服装からだ。後でしっかり拝見させてもらおう」
「なんか気持ち悪ぃ……」
「普通に傷つくぞぅ!さて、準備はできた。いくよ」
なんだかんだ、さすがマーリンだけあってもう準備ができたらしい。杖を出現させると、それを一振りする。その先が光った直後、アーサーの体も一瞬だけ眩く光った。
マーリンを
脅迫するために路地裏に呼んだが、これはこれで功を奏した形だ。
「…おお、」
そして、アーサーの霊衣も本当に変わっていた。
下はサーフパンツで、裾から腰に向かって濃くなるエメラルドグリーンのグラデーションで、ハイビスカスなどの柄が入っている。上半身は白い半袖のパーカーだけ羽織っており、前が開いているため逞しい体がはっきりと見えている。
ネックレスやシルバーバングル、ブレスレットなど装飾品も用意されている細かさで、足下もビーチサンダルと普段からは考えられない肌面積の多さである。
「いや〜、これは、私はとても良い仕事をしたんじゃないか?」
「あぁ、ありがとうマーリン。どうだろうマスター」
「えっ、あ、うん、」
どや顔のマーリンに礼を言ったアーサーは、こちらを見下ろして微笑む。
さすがに1年以上一番近いところで過ごしてきて耐性がついていたはずの唯斗だったが、こればかりは顔に熱が集中する。
ニヤァとマーリンが口元を緩めているのが視界の端に入って余計に居たたまれなくなるが、アーサーは小さく笑って唯斗の腰を抱き寄せた。
「わっ、ちょ、」
「ふふ、カルデアに来たばかりの頃、接触に慣れていなかったマスターを思い出すね。それでも、そんなに良いリアクションをしてもらってしまうと、僕も調子に乗ってしまいそうだ」
目の前には晒された鎖骨とネックレスのチェーンがあり、アーサーの肌の熱さが礼装越しに伝わってくる。
「…、だって、アーサーが服脱いでるとこ見んの、その、夜の、そういうときだけ、だから……」
「………」
「……、わぉ」
「マーリン、見るな。殺す」
「横暴だな!まぁ、さすがの私も空気は読もう。くれぐれも慎んでおくれよ、こんなところで青か「マーリン」じゃあね〜」
マーリンの言葉を遮って低く唸ったアーサーに、マーリンは笑って退散していった。抱き締められながら、どうかしたのかと見上げると、アーサーが珍しく、顔や耳を少し赤くしていた。
「…え、」
「まったく君は…もしも君がこの場で水着だったら正直危なかった……」
「あ、俺もそろそろ礼装暑いからホテル戻って着替えるか」
「マスター!」
「うわなんだよ」
アーサーの言葉で自分も着替えようと提案すると、アーサーは額を手で押さえて何かをぐっと堪えた。
「夜はジャンヌ・オルタ殿の原稿の手伝いだ、耐えろ…study to be quietだ……」と何やら呻くように呟いていた。ちなみにstudy to be quietは英国紳士の心構えのことで、どんなときも冷静にいつも通り、たとえアフリカの戦場でもアフタヌーンティーをして、ロンドンが空爆されても葉巻を吹かし、豪華客船が大西洋に沈没するときであってもウィスキーを楽しむようなメンタルのことだ。
なぜそのような心持ちを今この場面で自身に言い聞かせているのかは分からないが、とりあえず落ち着くまで待ってやることにした。