サーヴァント・サマー・フェスティバルI−5


唯斗とアーサーはいったんホテルに戻り、唯斗が礼装を着替えてからビーチ沿いに写真を撮ることにした。
いったん礼装を脱いだ唯斗は、せっかくなので軽くシャワーを浴びてから、アーサーに渡された水着礼装を着る。

立香は緑を基調としたサーフパンツだったが、唯斗のものは裾から腰に向けてアッシュブルーから白にグラデーションするデザインで、ネイビーのラインで植物のツタのような柄が入っている。なかなかお洒落な部類なのは、やはりダ・ヴィンチの仕事なだけある。

それにしても、このサーフパンツだけというのはなんとも心許ない。もちろん、中学時代の水泳の授業は受けていたためまったく初めてなどではないが、ホテルなどなんでもない場所でまでこのような格好というのは落ち着かなかった。


「うん、やはり似合っているね。君の瞳の色に合わせているんだろう」

「なるほどな。でも、やっぱちょっと落ち着かない」

「すぐに慣れるさ。さぁ、これを羽織って」

「え、」


アーサーは加えて、薄手のリネンシャツを差し出してきた。薄い水色で光を吸収するような色ではないが、しっかり長袖だ。


「…暑くね?」

「だめだよ、袖は捲っていていいから」

「まぁ、立香もアロハシャツ着てたか…じゃあ俺も普通のシャツで…」

「だ・め・だ。あまり肌を見せすぎてはいけない、減ってしまう」

「………何が?」

「何かこう…大事なものだ」


アーサーに長袖のリネンシャツを着せられ、渋々袖を捲りながらそれを羽織る。ボタンも真ん中あたりだけ留められた。大きく襟元や下腹部あたりはシャツが開いているが、それでもボタンをしているだけで暑苦しく感じてしまう。


「…せめて開けてても、」

「いいや。その細い腰を鷲づかみにして不埒なことをしたいと思う男たちの視線を避けないと」

「じゃあアーサーが女の目線集めてんのはいいのかよ」

「えっ」

「あっ」


ようやくアーサーの意図に気づいた唯斗は、ついぶすっとそんなことを言ってしまった。言ってから口を閉じては意味がない。
アーサーはポカンとしてから、一気に破顔した。


「気にしてくれていたんだね、唯斗」

「っ、うるせー…」


名前を呼んで、はっきりと「恋人」としての顔になったアーサーは、にこやかに唯斗を抱き締める。今度こそ、胸元あたりはアーサーと直接肌が触れ合ってしまう。アーサーもパーカーの前を開けているため、部分的にボタンの開いているところと触れるのだ。

そう、あまりに格好いいアーサーは、当然のようにストリートを歩く人々の視線を浴びていた。それはもう、道行くすべての女性の目線が集まっていた。
いっそのことマーリンに「芋ジャーにしろ」と言っておいた方が良かったか。さぞ解像度の高い地方の高校の指定ジャージが霊衣となったはずだが、そんなアーサーを見たくない。いや見たい気持ちはあるが、ここではない。


「大丈夫だよ、たとえ僕がどれだけ人々の視線を浴びてしまっても、僕は君しか見えていないから。前方不注意で僕が街灯にぶつからないよう、隣を歩いていて欲しい」

「街灯の方が怪我するだろ」

「街灯が怪我するってなんだい」


恥ずかしいことを言ってしまったのを誤魔化すために言えば、アーサーはおかしそうにクスクスと笑った。
とりあえず、用事も済んだため部屋を後にして、ふかふかのカーペットが敷き詰められた廊下に出る。

オートロックがかかったところで、唯斗はカードキーを小ぶりのウェストポーチにしまう。防水性のため、このまま海に入れるとのことだ。


「まずはビーチに出る前に、唯斗のサングラスも買わないとね」

「呼び方。さすがに部屋の外は一応サーヴァントしろ、フォーリナー調査っていう任務中でもあるんだから」

「そうだったね、すまない。僕も浮かれてしまって」


苦笑するアーサーに、唯斗は少し考えてから、そのパーカーの裾をそっと掴んだ。


「…?どうしたんだい?マスター」

「…、その代わり、部屋とかプライベートな時間と場所では、ちゃんと名前で呼べよ」

「ッ、…、了解……」


息を飲んだアーサーは唐突に動きを止める。そしておもむろに壁に額をつけて深呼吸を始めた。いったい何をしているのか。
「いけない…ここで部屋に連れ戻ってしまえば絶対動けなくなる(マスターが)…今晩は原稿の手伝いがあるんだから……耐えるんだ……」と何やらブツブツ言っていた。
ぼんやり「WEAK」という赤い文字が見えた気がした。


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