サーヴァント・サマー・フェスティバルI−7


「唯斗、ハワイ神話も分かる?」

「ちょっとな。古代メソポタミアで、アヌやエンキの信仰が廃れた一方でイシュタルの信仰だけが残り続けたように、ハワイでもキリスト教化してからも女神ペレだけがその信仰を保った。それは、ペレが活火山たるキラウエアの象徴だったからだ」

「へぇ、じゃあ主神クラスってこと?」

「いや、主神は別にいる。戦争神のクー、生命神カーネ、農耕神ロノ、海神カナロアの四柱が基本だな。これまでの神話と少し異なるのは、ハワイ神話ってのは、ポリネシア神話っていう上位神話体系の一部であり派生であるってことだ」


太平洋文明は、タヒチやパラオなどのポリネシアの島々が相互に連結して広大な文化領域を形成していたとされる。記録が乏しくいまだ調査途中だが、大半の島々で似通った神話が語られている。
ただ、その中でもハワイ神話は異質だ。


「ハワイ神話の特徴は、島の形成順だ。もともとポリネシア神話では、地母神にあたるものがいない。いないっていうか、他と位置づけが違う」

「大地の神様がいないの?」

「いや、大地を司る女神パパハナウモク、通称パパがそうだ。役割としては地母神でいいんだけど、他の神話体系と違って、大地そのものじゃないんだ。ポリネシアは島の文明、そしてこの小さな島々という土地は、神の体ではなく、神が生んだ子供なんだ」


神が結ばれて子を成すのと同じように、神が島を生む。これがポリネシア神話の特徴だ。
そしてこれは、ハワイにおいてはハワイ諸島形成過程そのものとなる。


「太平洋のど真ん中には、プレートテクトニクスという、地球の内側、マントルから湧き上がる超巨大なマグマの上昇流がある。これが地表で冷えて岩石となり、プレートとなって地球を覆って絶え間なく動き続けてる。ハワイ諸島は、プレートテクトニクスが地表でマグマを放出させたことで生まれた巨大な火山の山頂が、海面に突き出たものなんだ」

「うお…いきなり地学の話……」

「まぁ俺も門外漢だけどな。海面に突き出た火山島は、プレートに乗って西へと動いていく。だんだんマグマの上昇部分から外れていくと、マグマが出なくなって休火山になり、やがて死火山となる。今、マグマの真上にいるのがハワイ島のキラウエアだな。マウナケアはもうマグマからほぼ外れて活動を停止してる」

「あ、じゃあ次々に島が生まれては西に動いてってのを繰り返してハワイ諸島が生まれたわけだ。そんで、その生まれ順が、神話で神が島を生んだ順番になってるってこと?」

「さすがに慣れてきたな、その通りだ」


世界中の神話と接しているだけあり、立香の理解も早くなった。
そう、ハワイ神話において神々が島を生んだ順番は、このハワイ諸島の地学的な形成過程に一致する。


「ちなみに、あと数千年、あるいは数万年したらハワイ諸島は日本列島に到達するぞ」

「マジ!?じゃあ車でワイキキ行けるね」

「アホ」


その頃には日本列島は朝鮮半島を押しつぶして中国と一つになっているし、オーストラリアも北上してきて日本列島を押しつぶそうとしていることだろう。そうなれば日本だったものは数千メートル級の山岳地帯になっている。


「そんなハワイ神話において、雪の女神ポリアフと炎の女神ペレの対立は、ハワイ島伝承の核になってる。それぞれの島にそれぞれの話があるけど、ハワイ島のポリアフとペレが一番有名だな。ポリアフとペレは常に争い、必ずポリアフが勝つ。そしてポリアフはハワイ島の北側を、ペレはキラウエアを含む南側を支配している」

「なるほどね…さっきジャンヌ・オルタが言ってた『こちら側』っていうのは?」

「キラウエアは活火山、つまり現代ハワイの現役ってことだ。そこの支配者たるペレはまさにハワイ諸島全域の支配者。だからハワイに仇なすフォーリナーに敵対する、つまり俺たち側につくってことだろ」

「おっけ、全部理解した!島が子供になるっていうの面白いね」


古代メソポタミアでは、神の交代は都市の覇権の交代だった。ハワイでは、主神の交代は活火山の交代に連動するのかもしれない。とはいえ、小さな島々ながらハワイ神話には名前がある者だけで400柱以上の神がいる。何より、ペレはキリスト教化を経てもなお信仰を保ったということにこそ、ハワイを統べる神格があるのだろう。


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