サーヴァント・サマー・フェスティバルI−8
それから二日、ジャンヌ・オルタと立香、マシュが宿泊しているファミリールームに詰めて原稿に集中した一同だったが、結局大半が間に合わず、印刷会社による印刷・製本を意味するオフセ本ではなく、コンビニなどで私的にコピー・製本するコピー本での出稿となった。
無料配布でつつがなくサバフェスは終了し(開幕直前に襲撃したXXを自爆させるトラブルはあったが)、ホテルに戻ってくる。
なんだかんだ、この休暇のほとんどは机仕事となってしまった。
そうして部屋に入り、扉が閉まってロックがかかった瞬間、アーサーに後ろから抱き締められた。
「っ、アーサー?」
「僕は耐えた。それはもう耐えた。君の可愛いのクリ殴りに必死に耐えて我慢してきた。もう十分、僕は我慢したと思わないかい?」
「えっと…」
痛みこそないが、アーサーの拘束は強く抜け出せるものではない。
ここにきて初めて、アーサーがこれまで何やら呻いたり壁に頭をぶつけたりと奇行を繰り返していたのは、性的な衝動を抑えるためだったのだと理解した。
ずっと我慢してくれたのは、任務中であり、かつジャンヌ・オルタの手伝いで夜は缶詰になるからだ。
「…ん、じゃあ、シャワーだけ浴びさせてくんね?」
「………分かった」
だいぶ間があったが、アーサーは頷いて、ようやく腕から解放された。
受け入れる側にもいろいろと準備がある、シャワーだけはさせてもらおうと足を一歩踏み出した、そのときだった。
その足は、柔らかいカーペットではなく、無骨なリノリウムの床を踏んだ。
「……え、」
顔を上げるとそこは、ホノルル空港のアライバルゲートだった。
突然の出来事に呆然としていると、同じように、すぐ背後でアーサーが、隣には立香やジャンヌ・オルタ、牛若丸、ロビン、マシュも唖然として立ち尽くしていた。
「電子時計を飲み込めば、体内時計を咽せ返す。時間通りこなしたところで結果が出せなきゃ水の泡」
突然、その場に軽薄ないつもの声が響いてくる。一瞬で、事態の全容は分からずとも誰がやったのかを理解した全員、米神がひくついたことだろう。
「本を完成させただけで満足ぅ?仲間との絆が最高の宝物だったとか言っちゃいます?そんなルルハワのド甘いプディングみたいな甘っちょろい展開、BBちゃんは許しません!」
「次は何やらかしたの!」
立香が声を張り上げると、BBはなんでもないようにその正面に姿を現した。
「え、普通に時間を巻き戻しただけですけど?クリアできなかったらコンティニュー、ですよね?そういうわけで、今日は紛れもなくルルハワ1日目、あなたたちがこの特異点にやってきた初日です!今度こそはちゃんとオフセット本を作って、売り上げ1位を目指してくださいね?」
そうしてBBは、今回のサバフェスの真の目的を語った。背後でアーサーが隠しきれない殺意を滲ませていたものの、説明を受けて少し引っ込めたような、そんな真面目なものだ。
女神ペレを弱らせた正体、それはあのフォーリナーXXだった。弱ったペレを助けるため、BBは聖杯を生み出しサバフェスのエネルギーを集積し、サバフェスの優勝賞品とした。
本来はそれをハワイの霊脈に使用してくれる人物の優勝を願っていたものの、実際に優勝したのは自分の写真集を売り出したメイヴ。メイヴは自身のために聖杯を使用しようとしたため、BBは時間を巻き戻して立香たちの優勝を企んだというわけである。
つまり、ずぶの素人であるジャンヌ・オルタたちが1位を取るまで、この7日間が永遠にループし続けるということだ。
しかし記憶は保持されるようで、アーサーもなぜか水着の霊衣が維持されている。大方、マーリンはこのループを記憶しているのだろう。もとは世界を俯瞰する観測者だからだ。BBもそれは織り込み済みだろうが、特に気にした様子はない。
話すだけ話すとBBは立ち去り、黒髭と出くわす初日の会話が繰り返される。本当にループしている。
そして、不機嫌なアーサーに、立香とロビンは昨晩、もとい−1日前の夜に何があったのか、いや、何が「なかった」のか理解したのだろう、痛ましそうな顔をしていた。