サーヴァント・サマー・フェスティバルI−9


ホテルのチェックインを済ませるところまでは、前回の初日と同じだったが、今回は黒髭から助っ人を紹介された。
なんでも、ジャンヌ・オルタたちの隣の部屋に宿泊している刑部姫がその道のプロらしい。

刑部姫、姫路城に住まうとされた妖怪、あるいは神霊のような存在であり、グランドオーダー後に召喚されたサーヴァントの一人だ。
やってきたはいいが、部屋に引きこもって外に出ることはない。そして重度のオタクであると聞いている。唯斗に至っては見たことすらなかった。

唯斗とアーサーが部屋に荷物を置いてジャンヌ・オルタの部屋に来たときには、すでに刑部姫が自分の作業道具の一部を運び込もうとしていたところだった。


「手伝うか?」

「ヒッ!?アッだめ、イケメンはいきなり話しかけないで!」

「…えっ、?」


動揺する唯斗に、立香は苦笑して刑部姫から荷物の一部を受け取る。


「そういえば、おっきーは唯斗と会うの初めてじゃない?ずっと引きこもってるし」

「…あ、もう一人のマスター君?」

「雨宮唯斗だ、よろしく。こっちは異世界から来た方のアーサー王」

「アーサー・ペンドラゴンといいます。お目にかかれて光栄です、プリンセス」

「ヒュッ」

「あ、おっきー死んだ。ちょっと二人とも2メートルくらい離れてて」


立香は慣れたように唯斗たちを遠ざけると、刑部姫から受け取った原稿を手に取り、動きを止めて石化している刑部姫に小声で音読して読み聞かせ始めた。
始まって数秒で蘇生した刑部姫は、奇声を発してからそれを止めさせて、ようやく落ち着いたように唯斗たちに向き直った。


「ごめん、姫ちょっと顔面偏差値高めなのまだ慣れてなくて。ええと、ダウナー系の綺麗系男前君がもう一人のマスター君、金髪翠眼の王子様がかの騎士王。おっけ、覚えた。よろしくね。オルタちゃんに指導しつつ、自分の漫画も頑張る予定なので」

「あ、あぁ…悪い、配慮なかったか」

「あー、ううん、君たちのせいじゃないよ。ふふ、聞いてた通りのいい子なんだねぇ。いいよ、君すっごくいい、100点、答えはお死枚、なんちゃって」

「…?、とりあえずよろしくな」

「姫傷つかない、得体の知れないものを見る目で見られても全然気にならない」


正直まったくついていけないが、立香の様子からこれが平常運転なのだろう。相手は英霊だ、気にしすぎても意味はない。アーサーも考えるのをやめていた。
唯斗は切り替えて、室内に入ってジャンヌ・オルタの様子を見る。


「とりあえずこれからネーム?だっけ?作るんだよな」

「そうだよ。俺がコマ割りとはいろいろ調整する係。ロビンはマネージャー、牛若丸と唯斗たちで背景とかトーンとかベタ塗りとか」


漫画制作特有のワードは一通り覚えた。絵心が壊滅している唯斗とアーサーは単純作業に終始することになる。それは前回と同じだ。


「じゃあ、ある程度固まるまでは仕事ないな。資料とか買い出しとか、そういうパシリで使ってくれ」

「あー早速だけど、俯瞰した街並みの写真撮ってきて。展望台でもいいし、飛べるなら飛んできてもらってもいいわ」


早速、ジャンヌ・オルタはカメラをこちらに放り投げて依頼してきた。難なくキャッチして、すぐに大体の行動ルートを決める。


「高さは?どんくらい高い風景なんだ」

「こだわりないけど、調整できるならいくつかパターン頼める?あぁ、あと昼と夕方、夜で3種類」

「分かった。アーサーに飛ばせる。迷彩は俺がかけるから」

「了解。早速デートできるね」

「ぶふッ」


アーサーが微笑んで唯斗の腰を抱くと、突然、刑部姫がまた奇怪な声を発した。

ファミリールームのため、広いダイニングテーブルに資料やペンタブが並べられており、その椅子に座っていた刑部姫が口元を抑えてティッシュで拭っていた。何か出たようだ。


「ちょ、え、二人ってひょっとして…」

「あー…悪い、気分悪くしたか?」

「ううん!全然!」


何気なくいつもの距離感になってしまったが、不快にさせただろうか、と謝ると、刑部姫は大きく首を横に振った。


「姫、別にBLは好きでも嫌いでもないっていうか、まぁ美味しければ百合でもNLでもBLでもなんでもいい雑食なんだけど、さすがに生モノはちょっとアレだったのね、でも生モノにしてはまったく不快感ないっていうか、うん、全然OK!てかむしろkwsk!」


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