サーヴァント・サマー・フェスティバルI−10
ノンブレスで言ってのけた刑部姫に、唯斗は少しフリーズしてから、立香にヘルプを求める。別のシッティングスペースの大きなソファーに座っていた立香は苦笑した。
「二人の馴れ初め教えてって」
「それだけのためにあの文字数…?まぁいいけど…あんま気分いい話じゃないぞ」
「へぇ、あたしも気になる。参考になるかもだからゲロっちゃいなさい」
「そういや俺も詳しくは聞いたことありませんでしたねぇ」
「ブリテンが騎士王の恋バナとは、この牛若丸、ぶっちゃけとても興味あります」
息を荒くする刑部姫だけでなく、ニヤニヤとするジャンヌ・オルタとロビン、牛若丸まで加わってきた。三人ともテーブルについて傾聴姿勢になっている。
一方、いろいろ知っている立香とマシュは困ったように笑っていた。嫌だったら止めさせる、という立香の目配せも受けた。
「アーサーは?」
「君が大丈夫なら問題ないよ」
「ん、俺も大丈夫」
唯斗の返答に、立香はほっとしてマシュと二人ソファーに並ぶ。
嫌がるような話ではないが、単純に不快にさせてしまうかもしれない。そう思って、唯斗もテーブルについて、言葉を選びながら過去のことをかいつまんで話した。
父親の家系のこと、母親が唯斗を生むと同時に亡くなり父がおかしくなったこと、フランスや日本での苦しい暮らしの末に殺されかけたこと、そしてアーサーとの出会い。
その後、カルデアでアーサーと再会し、人間として成長しながらグランドオーダーの旅を歩む中で、次第に感情も成長していき、第六特異点後の精神的な不調のあと、第七特異点から終局特異点にかけて思いを形にした。
そんな一連の話を、簡単にしたつもりだったが、それでも5分ほどかかってしまった。
話を聞き終わったロビンは複雑そうな表情を浮かべてから、優しく微笑む。
「頑張ったんですねぇ、唯斗さん」
「っ、そ、うかな」
「フン、フランスのときより人間的な成長が見られたのはそういうこと。まぁいいんじゃない?お似合いよ。でもあんまあたしの前でイチャついたら燃やすわよ」
ジャンヌ・オルタは彼女なりに空気を変えるようにしてくれたようで、そんなことを言って肩を竦めた。牛若丸も元気よく立ち上がる。
「私がカルデアにやってきたときには、すでに唯斗殿は今のような素敵なお人柄でしたが、そんな紆余曲折があったのですね。一冊の本が書けそうではありませんか!」
「…そう、そうなのよ牛若丸ちゃん!きたきたきた!ビビッと来た!!」
牛若丸は同人誌の道が長い刑部姫に同意を求めたが、刑部姫は何やら興奮したようにタブレットに何かを高速で打ち込み始めた。
「決めた!姫、コピー本も出す!」
「はぁ!?あんたそれ修羅の道よ、あたしが言うのもアレだけど」
「いいの!新刊だけでぶっちゃけだいぶキツいけど、でも、このパッション書くしかないの!」
なんと、この7日前というタイミングにして刑部姫はコピー本に着手するらしい。
恐る恐る、唯斗は尋ねる。
「……ちなみに、題材は」
「もちのろん、騎士王×マスターのBL漫画に決まってるっしょ!!」
「は!?何考えてんだあんた!」
思わず唯斗は大きな声を出してしまったが、もはや刑部姫は聞いていない。
「はぁ〜、てぇてぇ〜!このてぇてぇの波動、書かなきゃ姫おかしくなっちゃうぅ〜!」
「何か質問があれば私にどうぞ、プリンセス。期待しています」
「アーサー!?」
「まっかせて!生モノで本出すの初めて…じゃないかもだけど、そういうのはコピー本がちょうどいいし!」
これは止められないやつだ。ロビンと立香も諦めろという顔をしている。
恐らくこのループでいきなり1位、というのは難しいであろうから、このコピー本が流布した世界線が継続しないことがせめてもの救いだ。7日目の公開処刑を耐えるだけ、と自分に言い聞かせながら、心の中に少しだけ、完成したものを読んでみたい気持ちがあることは気づかないフリをした。