サーヴァント・サマー・フェスティバルI−12


3週目の同人誌は「Little little bullet」というタイトルで、テーマは無垢な少女たちが銃火器を持つというものだった。一部の受けは非常に良かったものの、テーマ的にはかなりニッチな部類であったようだ。また、肝心の戦闘シーンを書くことができなかったため、漫画部分は未完となってしまった。

そのためこの周でも1位になることはできず、ループが確定する。

ちなみに、刑部姫のBLコピー本は「クッキング・アーチャー」で、唯斗がカルデアでエミヤに料理を教わる話だった。もちろん、ページ数が限られたコピー本のため、すでに付き合っている設定である。
漫画とは言え他のサーヴァントと付き合っている作品に、アーサーはぶすくれて読もうとしなかった。唯斗は興味を抑えきれず読んでしまったが、次エミヤに会ったときに平静でいられるか分からなかった。
クオリティが高い分、変に意識してしまいそうになるほどリアリティがあったのである。

そして4週目、慣れたようにいつもの流れをやってから、2日目の昼のことだった。

息抜きもかねて、食事が必要な唯斗と立香、マシュの他、牛若丸と刑部姫も一緒になって、1階のレストランで昼食を取っていたときだ。


「おや、マスター」

「あれ、サンソンか」


声をかけてきたのはサンソンだった。唯斗のサーヴァントたちも全員休暇を取っていたが、サンソンもルルハワに来ていたらしい。


「サンソンも来てたんだな」

「ええ。ジャンヌとマリーのサークルの手伝いです。といっても、読んで感想を述べるだけで、他にやることは紅茶やコーヒーを入れるくらいなのですが」


さすがにサンソンもあの黒い衣服ではなく、爽やかな水色のシャツにチノパンというカジュアルな格好だった。サンソンの場合は、特に霊体化や戦闘も予定していないことから、霊衣ではなく実際の衣服を着ているようだ。


「いいなそれ、似合ってる。カルデアでも着ればいいのに」

「さすがにカルデアではあなたのサーヴァントとしての役割が優先ですから、戦えない服で過ごすわけにはいきません」


サンソンはそう苦笑してから、テーブルのメンバーを見て疑問を浮かべる。


「それにしても、また変わったメンバーですね。マスターは休暇ですか?特異点で休暇というのもおかしな話ですが」

「や、それが、フォーリナーが観測されたっていうんでその調査に来てるんだ。ただ、それはもう片手間で、今は同人誌制作の手伝いに勤しんでる」

「そうだったのですか、申し訳ありません、サーヴァントとして僕もお力になるべきでしたのに」


一応は任務中と聞いて、途端にサンソンは申し訳なさそうにする。このままでは休日を返上しそうだったため、唯斗は先回りすることにした。


「俺もほんと、休暇の傍らって感じだから気にしなくていい。フォーリナーもなんか…アレな感じだったし。サンソンもゆっくりしててくれ」

「そうですか。でももし何かあればいつでも呼んでください、あなたの力になることこそ僕の喜びですから。それでマスターはこのあとどうされるので?」


なんとかサンソンも事態の気軽さを理解したようで、安心したようにする。そしてこの後のことを聞かれたため、何も決まっていなかったことからアーサーを見上げる。


「どうしよっか」

「ビーチにでも出るかい?今はまだ、僕らができる単純作業の段階ではないみたいだし」

「そうだな、とりあえず外には出てみるか」

「日焼け止めはきちんと塗りましたか?」


今この場で決まった予定を聞いて微笑んだサンソンに、日焼け止めのことを聞かれる。毎度外に出るときは塗っていたが、今日はまだつけていなかったことを思い出す。


「今日はまだ」

「いけません、日焼けも火傷の一種ですから。僕のお勧めの日焼け止めを処方しましょう」


そう言って、サンソンはポケットから日焼け止めを取り出した。マリーたちのアシスタントのようなことをしているサンソンだ、その効き目は本物だろう。
サンソンは日焼け止めクリームを手に取ると、おもむろに、唯斗の顎に指を当てて上向けさせた。


「…え、いや、そこまでしなくても、」

「これくらいはさせてください、サーヴァントですから」


サンソンは他意のない笑顔で言うと、日焼け止めを唯斗の顔に塗り始めた。優しい手つきだが、すぐ目の前にサンソンの端正な顔があり、ぬるぬるとしたクリームを塗られて背筋が少し震える。
思わず目を瞑ってしまうと、サンソンが動きを止める。


「…、」

「マスター、キス顔は僕以外に見せてはいけない」

「ファッ!?」


ついにアーサーから遠回しなストップが入ったそのとき、刑部姫はそんな奇声を発した。
全員の視線が向かい、唯斗はやってしまったと思い至る。これは、この流れが定型化されてしまうやつだ。


「え、えええと、騎士王さんと唯斗君はそういう…へぇ…ひらめいた」

「お、刑部姫…?」

「姫決めた。コピー本出す」

「え、おっきー今からそんなことして…平気か」


これが3回目であることを思い出した立香は、止めることもなく苦笑する。
唯斗は遠い目になりながら、一応尋ねた。


「……ちなみにテーマは」

「愚問ね!サンソン先生×唯斗君で決まり!いや騎士王も捨てがたいけど、コピー本だしあえて自由なことしてもいいかなって!」

「おや、それは良いですね。できたら僕にも見せてください」

「めっちゃ恥ずかしいけど了解!」


恥ずかしさが完全に消えたわけではないが、一方で、慣れてきた唯斗は刑部姫がどんな話を書くのか気になってきているのも確かだった。ループの度に刑部姫にコピー本作成を思いとどまらせることも考えたが、もう放っておいてもいいか、と思い始めている。

それに、アーサーがコピー本の中に描かれるサーヴァントたちに嫉妬めいた感情を抱いて、二人きりのときにやたら唯斗を抱き締めてくるようになったため、その様子を見たいという邪な動機があるのもまた事実だった。


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