サーヴァント・サマー・フェスティバルI−14
なんと、それはランスロットその人だった。あまりの適応ぶりに、立香に抱き締められたまま、そのアロハシャツを掴む。
「お、おい立香、どうなってんだ」
「わかんないよ!ほぼ別人じゃん!?」
小声でやりとりしていると、そこに新たな人影が現れる。
「私は悲しい…一人で済ませてしまったのですか…」
「トリスタンの言うとおりです。マスターに不埒な働きをしたあの男ども、この太陽の現し身にて処断しようとしていたのですが」
アロハシャツを大きくはだけさせたトリスタン、そして筋骨隆々の体を惜しげもなく晒しながらも白いタオルを肩に羽織ったガウェインだ。円卓の3人が、揃って水着で現れた。
ようやく、唯斗は立香の腕から離れて騎士たちに向き直った。ランスロット単体は直視できない。
「お怪我はありませんか、マスター。申し訳ありません、一瞬でもあのような不埒者をあなたに触れさせてしまいました…我らサークル・キャメロット、不甲斐のなさをお許しください」
「え、なんて」
聞くところによると、この3人にベディヴィエールを加えた4人は、このビーチで「困っている女性を助けるサークル活動」を行っているらしい。ベディヴィエールがいるなら女性を引っかけまくっている、というようなことはないだろうが、それにしてもいったい何をしているのか。
つい呆れてしまった唯斗たちだったが、ランスロットが助けてくれたことには変わりない。
「ありがとな、ランスロット。助かった」
「いや。むしろ私こそ、君の陶磁器のような肌をあのような野蛮な男に触れさせてしまったことを詫びなければ。あぁそうだ、謝罪を兼ねて夕食でも奢らせてはくれないだろうか?忘れられない夜を約束しよう」
「…、グィネヴィア……」
「うぐッ」
モードレッド曰く「クソ真面目」なランスロットだ、ルルハワに順応しなければと忠実にチャラ男と化していたようだが、この誘いはさすがにアーサーにも咎められる類いのものだろうと一言名前を出せば、ランスロットは吐血して倒れた。
「やっぱガウェインもトリスタンも…助けるって名目で女たちを……」
「誤解ですマスター!誓ってそのようなことは!」
「お礼にとお誘いを受ければその限りではありませんがね…」
「トリスタン卿は黙っていてくれ」
焦ったようにするガウェインに小さく笑ってから、唯斗はそろそろ戻らないとジャンヌ・オルタに怒られると立香の手を引く。
「まぁなんでもいいけど、後腐れないようにしろよ」
「マスター!」
「行こう立香、ジャンヌ・オルタが呼んでる」
「あ、おっけー」
二人はガウェインたちを置いてビーチをとっとと歩き出した。ああやってバカなことをできるのもサーヴァントならではだ。生前にいろいろあった彼らだからこそ、こういう時間も大切にしてもらいたい。
そして唯斗は、手を離して隣を歩く立香に視線をやる。
「立香もありがとな、さっき」
「え、あー、うん、俺こそ来てくれてありがとね。てか、俺があそこで動かない方が、唯斗の反撃もしやすかったのかな、とか思ったり…」
「無意味に痛い思いする必要もないだろ。俺もとっとと片付ければ良かった。でも、立香がああやって庇ってくれたの、ちょっと嬉しかった」
「ドキッとした?」
「ドキッとした」
「えっ」
正直に答えれば、立香は少し顔を赤くして、シャツの襟元をパタパタと仰ぐ。
「…、夏の唯斗、侮ってた…こりゃアーサー王も大変そう。1日フリーな日とかあった方がいいかな、なんて思ったけど、それやったら唯斗、1日抱き潰されそうだからやらない方がいいね」
「……不吉なこと言うなよ」
「はは、まぁほどほどにね」
「おい」
楽しげに笑う立香に、唯斗はそれ以上怒ることもなく、ため息をつく。なんでもない時間だが、しかしこれも特異点の中の出来事だ。「本当の」日常ではない。立香が外の世界に戻ることができる日が来るのか、いまだに分からないが、それならせめて、こういう日常のような時間が少しでも多く過ごせればいいと思う。